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「柴田くん、弟のこと知ってるの?」


「っ、あ、いやその…」




知ってるか知らないかと問われれば間違いなく知ってます。

でも初対面のくせに失礼な態度を取った手前、大っぴらに知ってますとは言い難かった。特に見吉さんには。

大切な弟を笑い者にされたと分かれば、見吉さんの俺への好感度はだだ下がり間違いないだろう。




互いの存在を認識した直後、彼はソファーから重い腰を上げてゆっくりと俺の目の前に立った。




「ふーん…、人の顔見ていきなり笑うとかどんな神経してる奴かと思ったけど、アンタが姉貴の友達だったとはね」


「スズを見て、笑った…?」




……終わった、俺。


完全に見吉さんに嫌われた。




と思った瞬間、嘲笑うような乾いた笑い声によってこの場の空気が一変した。




「チュン助の顔を見て笑った、ね…。どうせテメーが腑抜けた面してぼーっと突っ立ってたんだろう。情けねぇ」


「あ?」


「だからテメーはナメられるんだよ。お姉さんの弟って自覚がねぇのか?」


「ハナ、テメー…」


「ハッ、テメーに凄まれたところで痛くも痒くもねぇよ」




罵詈雑言が飛び交う中、俺は開いた口が塞がらなかった。




………誰、この人?




え、ここって見吉さんの家だよね?


この人達って見吉さんの弟と妹だよね?




「お前には関係ねぇだろう。外野は引っ込んでろ」


「聞くに堪えなかったんだよ。こんな奴が血縁者にいると思うと情けなくて涙が出るわ」


「勝手にベソかいてろ不良娘。精々大好きな姉貴に慰めてもらえよ、おはなちゃん」


「っ、……上等だ!表に出ろクソ野郎!」




バンッと、テーブルを叩き付けて弟くんの胸倉を掴む妹さん。

そんな妹さんに負けじと、手は出さないものの額と額がぶつかる距離で睨み付ける弟くん。




マ、マジか…。


リアルヤンキーじゃんこれ。


俺、今日からこの家でお世話になるんだよな?


この二人と毎日顔合わせるんだよね?


いくら見吉さんがいるからとは言え初日からやって行ける気がしないんですけど!?




―――パンッと。




乾いた音が思考を遮る。

その音に反応したのは俺だけではなく、先程まで言い争いをしていた二人もピタッと動きを止めた。




「はい、喧嘩はそこまで。柴田くんに二人を紹介したいから席に着いてね」




そう言って仲裁に入った見吉さんは、先程までの二人の喧嘩を何事もなかったかのようにスルーした。




「チッ」


「……分かりました」




どうやら姉である彼女の言葉にはすんなりと従うようだ。




……意外。


ヤンキーでもお姉ちゃんには逆らえないものなのか。




「見苦しいところを見せちゃってごめんね。でも本当は二人共凄く仲が良いの。喧嘩するほど仲が良いってよく言うでしょう。でもお互いまだ子供だから力加減がよく分からないみたいで…」


「ははっ、そ、そうみたいだね…」




……嘘だ。

この二人が仲良いなんて信じられない。

だって、ほら。見吉さんに聞こえないように「テメーのせいでお姉さんに怒られただろうが死ね」「お前が死ねシスコン」とか言い合って見えないところで足蹴りし合ってんだよ。

絶対仲良くない奴じゃんこれ。

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