第36話

「え?やっぱり見えたの?止めたって…。」


「公園で首にロープを架けようとしているのが見えて…止めに行ったんだ。」


「それじゃあ…。」


「でも…死んじゃった。」秀雄は紅茶から立ち上る湯気を見つめている。


「先のことが見えるようになって…何とか事件も解決できて…今回も止められたと思ったんだ。うまくいったと思ったんだよ。

でも…僕に見えるのはこれから起きる出来事だけなんだ。」


「どういうこと?」


「人の心までは見えない。あの人の『死にたい』っていう気持ちだけはどうしようもなかった。」


「そんなの…秀雄のせいじゃないよ。責任感じるなんて…。」


「責任は…感じないよ。でも、もう未来なんて見えてほしくないし見たくないよ。」

秀雄は目をつぶってしまった。


「ずっと考えてたんだけどさ、神様っているのかな?いるとしたら…やっぱり未来が見えているんだろうか…。」


「考えた事…ない…。」


「見えていて黙っているんなら…そんなの無理だよ。僕は神様じゃないんだ。」

美紀は何も言えなかった。秀雄の悩みなど想像もつかなかったのだ。


「秀雄…大丈夫?」


「晴れてきたね。」秀雄は窓の外を見ている。


「一週間雨が降る予報だったけど、外れたみたいだ。でも、これでいいんだよ。それにもうすぐ終わる。」


「え?」


「最初は一週間先の事が見えて…だんだん期間が短くなってコンビニ強盗の時に見えたのは1日後のことだったから…もうすぐ見えなくなる…と、思う。でないと堪えられそうにないよ。」


「秀雄…ごめんね。」


「私、何も知らないで嫉妬したりして…秀雄はいつもの秀雄で、ただちょっとだけ未来の事が見えてしまうようになっただけなのに…。何にも分かってなかった。」


「そんなことないよ。」秀雄は笑顔を見せる。


「未来が見えるなんていう話ができたのは美紀にだけだよ。それより…。」


「さっきは大声出してごめんね。びっくりしたしょ?」美紀を安心させるような笑顔。何だか男らしくなったようにさえ見える。


「秀雄…。」

秀雄が目を上げると美紀が目をつぶり、顔を近付けてきている。秀雄は驚くが、これも未来の映像かもしれないと考え、目を閉じた。


長い時間が経ったように感じられたが、次の瞬間。

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