第35話
「うん…。」秀雄も肩を落としている。美紀は秀雄の様子がおかしい事に気付いていた。瑠海の言う通り、秀雄がドーナツを食べるという話はあまり聞かない。
「もしかして…。」“何かが見えたのか”を問い質したいのだが、瑠海がいるのでそうもいかない。
「何だかあの店にも行きずらいよね…。」瑠海は溜め息をつく。
「だよね…。」
外は雨が強まってきた。『雨というのは戦争で死んだ人の涙なんだ。』そんな迷信めいた話を聞いたことがあるが、美紀は今日のような日はそんな迷信さえ信じてもいいような気分になっていた。
言うまでもなく、そんな事情を知らない他の生徒にとって秀雄は相変わらずコンビニ店員を救った英雄であり、当初に比べて多少収まってきたとはいえ秀雄についてまわる取り巻きはまだいたのだ。今も女子2人組が近付いて来ている。美紀は少し離れた所から面白くなさそうに様子を見ていた。
「ね、秀雄君…。」この言い方で相手が何を言わんといているのかが判る。
突然、秀雄が口を開いた。
「僕は何も特別な事していない!みんなだって困った人がいれば助けるだろう!同じことだよ!」秀雄が大きな声を出して言った。2人組は不意を突かれてキョトンとしている。
「だから悪いんだけど、もう静かにしてくれないかな。」
一番驚いたのは美紀で、さっきよりも口を開け目を丸くしている。「間違いない。」美紀は確信した。
「秀雄。」大声を出したばかりの秀雄が我に返るように振り向いた。
「今日、家に寄らない?話があるんだ。」
「うん。」秀雄は少しためらったが、そう返事をした。
「何か見えた…?」美紀が静かに聞いた。秀雄はチーズケーキに手を付けないままでいる。
「あのドーナツ屋さんの人、止めに行ったんだ…。」
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