おひいなさんはどこにいる
二枚貝
第1話
ひいな、ひいな、おひいなさんはどこにいる
ひいな、ひいな、おひいなさんはどこにいる
幼稚園から帰ると、茶の間が様変わりしていた。大好きなこたつがどこにもなくて、代わりにこたつがあった場所に、大きな赤い階段みたいなものが置かれている。
「ねーママー! なんでひなまつり出してるの! こたつはー?」
「ひなまつりじゃなくてお雛様でしょ」
「なんでひなまつり出してるの! ひなまつりは女の子のでしょ! おれ女の子じゃないもん!」
「こういうのはお祝いだから、いいのよ。それに何年も箱にしまいっぱなしじゃ、お雛様がさみしくてかわいそうでしょ」
「えー……ぜんぜん、かわいそうじゃ、ないんだけど!」
こんなの全然かわいくない、と言って去年怒られたから、言わないけど。でもひな人形は、かわいくないし、こわい。スマホのキャラみたいにかわいくすればいいのに、なんでわざわざ大人みたいな顔にしたんだろ。
よるごはんのときに、おばあちゃんがちらしずしをつくってくれた。ちっちゃいお皿にもよそって、ひな人形のところにおそなえしてた。
おひなさまのちらしずしにだけエビが乗ってて、すごくうらやましかった。
「おばーちゃん、なんでひなまつりだけエビあるの、ずるい!」
「これ。手を出すんじゃないよ、お供えなんだから」
「エビ! たーべーたーいー!」
そしたらおばあちゃんはよくわからないことを言った。
「このエビはね、あんたの身代わりなの。エビがなくなったら、あんた、代わりにおひなさまに囓られちゃっても知らないよ」
「?」
「うちは代々女しか生まれない家系だったのに、急に男の子が生まれたもんだから……これで満足していただかないとね……」
おばあちゃんはこっちじゃなくて、誰もいない変な方向を見ながら、ひとりごとみたいに言った。
「………おひいなさんはどこにいる…………ここにいなけりゃどこにいる……」
何日かたって、ひな人形が片付けられる時はすごくほっとした。
「ほら、そこうろちょろしないで! 細かいパーツが多いんだから、失くしたら大変!」
おかあさんはずっと床に座って、ああでもないこうでもないとつぶやきながら、片付けしている。
「あんたは男の子だけど、結婚してかわいい女の子が生まれたら、その子のものになるんだからね。大事にしなさい」
「けっこん? パパとママみたいに?」
「そ。このお雛様ね、おばあちゃんが実家の蔵から嫁入り道具に持ってきたの。誰の人形かはわからないらしいんだけど、おばあちゃんのお母さんか、そのまたお母さんのものだったんじゃないかって」
うちの一族の女は、お雛様が守ってくれるのよ。おかあさんはそう言って、ひな人形の顔に綿をかぶせて、箱の中に入れて蓋をした。
おひいなさんはどこにいる 二枚貝 @ShijimiH
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