【渡辺陽葵】

第1話

甘いシロップに炭酸水をそそぐ。

パチパチと音をたててはじける泡と一緒に私の心も高鳴る。

エバーグリーンの恋心。放課後の美術室に二人きり。

なんだかいけないことをしているようで少しくすぐったい。


「メロンリーダなんて久しぶりに飲む。」

「うん、僕も。」


あれ?こんな感じだったっけ?と不思議な気持ちになる。

ずっと前から近くにいる幼なじみなのに、なんだかいつもとは違う気がした。


陽葵ひまり、見て。これ僕の新作。」


そういってりつは大きなキャンバスに書かれた絵を見せてくる。


「すごい、上手。」


絵のことはよく分からないけど、律の絵には"他の絵とは違う何か"があった。

一度見たら忘れられないような何かー。

私は律が書く絵に確かな才能を感じていた。

よく『絵は人を表す』 と言われる。その人がどんな人生を歩いてきたか

絵をみればだいたい分かる、らしい。


「僕、今日これ完成させてから帰るよ。」

「え?まだ完成してなかったの?」

「うん。まだ"仕上げ"が足りないんだ。」


そう言って律はまた絵を書きはじめる。


「ふ一ん。」


とあえて興味なさそうな返事をし、

まだコップに残っていたメロンリーダを一気にのみほす。

炭酸が抜け、甘ったるくなったメロンソーダはその色もあってか化学薬品のような味がした。

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