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ライブの日は三週間ぶりの全国的な記録的豪雨となった。

私はあいにくの天候の中、東京行の急行電車に揺られる。電車の中でもチラホラと彼らのグッズらしき団扇やペンライトが見える。流石トップセールスを誇るアイドル。


『由結聞いてるー?』

『え、何だっけ?』

『もー!ちゃんと聞いててよ。今日多分ライブ内で重要発表あるから』

『そうなの?なんで?』

『えぇー!オタクの感!』


そう、綾乃は冗談めいた口調で私に話した後またヘッドホンを頭につけ、アイドルの音楽を復習している。

私もライブに行くからとサブスクにアイドルの音楽を保存して登下校の時間に繰り返し聞いていた。

嫌々と言っても私は私なりに初めての音楽ライブに心を踊らせていた。


彼らのグループは王手男性アイドル芸能事務所でトップを走るグループ。

だからサブスクに入れる前から、テレビやコマーシャルで耳にしたことのある曲ばかりだった。

デートに行くような浮足立っている友人の隣で、私は初めて有名人に会うなぁなんてぼんやりと考えていた。



〈次は~新宿ー新宿ー、○○線、…をご利用の方はお乗り換えです〉


ワクワクそわそわしていると思っていたよりも時間の進みは早いようで、車窓から見える景色はいつもの田舎道から見上げるほどのビルが立ち並ぶコンクリートジャングルに変わっていた。

私はアナウンスを聞いて慌てて隣で音楽を楽しんでいる人に言った。


『綾乃、乗り換えじゃない?違う線だよね?』

『ん?なにー?』

『駅だよ!後楽園行くには乗り換えでしょ』


そう訴えると、そうじゃん!さんきゅ、なんて軽々しく返され荷物の整理を始めた。

好きな人に逢うはずの彼女は思ったよりも呑気だ。

私だけがそわそわしているようで、心臓の音が少し上がるのを感じるくらいに恥ずかしかった。


そんな友人と私は、田舎住まいの敵・電車乗り換えに無事成功し、東京ドームの最寄り駅である後楽園駅に降りた。

降りた瞬間、私は息をのんだ。

都会の景色に驚いたのではなく、人の多さにビビったのではなく、駅から東京ドームへ向かう人達から溢れ出る、「楽しみ」というムード、だった。


『由結~!何突っ立ってんの。道のど真ん中で突っ立ってたら邪魔じゃん』


私は気づいたら、改札前の道の真ん中で足が止まっていたみたいだ。気づいたらというか、気づいた時にはということだろうか。


『あ、ごめん』

『何、どうしたのよ。やっぱライブ行くの怖くなった?』


彼女は私が初ライブなことは知っていた。昔から特に好きなものができたことない私は、ライブがどんなものかわからないから少し怖いことも事前に話していた。

私はその時の恐怖を真逆の感情を、ここで抱いている。


『いや、ライブに向かう人たちみんな幸せそうだなって思って』


ライブに向かう皆さんの仲間になりたい。

ああなれたら楽しいだろうと、ああなれたら幸せだろうと。




そこで気づいた。

好きになるのがいやだったんじゃない。自信がなかっただけだった。


隣にいる友人のように、笑顔でライブに向かう皆さんのような好きを貫く人に、

心底憧れてるだけだった。ただそれだけだったんだ。


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あなたの笑顔を守りたい 岩九羅 杏 @Iwakura-ann

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