05 赤飯の味Ⅱ
今日の給食は赤飯らしかった。
最近、家庭で食べる機会があったためか、鬱陶しい気持ちもあったけど、別の意味での期待の方が大きかった。
友達とおそらくメニューの話をしている悠を見た。
悠は豆類が嫌いな傾向がある。
当然赤飯も苦手だろう。
私はよく、給食の時間に悠の苦手な食べ物を代わりに食べてあげている。
というのも、最初は落ち込んだ悠を見ると気が気ではなく、助けたいという善意からくるものだった。
しかし、最近はそれが自分の欲からくる行動にすり替わっていた。
私が悠を手助けすると、悠は気づいてないかもしれないけど沈鬱な表情を見せる。
しかしそれは一瞬で、本心としては安心感や嬉しさが勝るのか、赤く甘えた表情を見せる。
私はどちらの表情も好きだった。
単に悠が苦しんでいるのは嫌だったが、私のことを考えて苦しんでくれるのならば、それは愉悦に変わってしまう。
そんな自分勝手な、我儘な恋をしている自覚はあった。
初めて、苦手なものを食べてあげると提案したときは、とても緊張したし、何回もその機会を逃していた。
それは、悠に気持ち悪がられてしまう可能性があったからだった。
そのため、毎度悠に対しる初めてのアクションはとても緊張する。
だから未だに勉強したゲームやアニメの話もできないでいた。
また、もう一つの理由として、私が悠のことが好きであると悠自身に気づかれたくないというのもある。
多分、両方が気持ちに気づいてしまったら、こっちも緊張してしまうからだと思う。
だけど、そういう関係になるためにはそれが必須であって。
それが悩ましく、いつも後回しにしていた。
とりあえず今は慎重に、石橋を叩いて、ゆっくりと、悠との距離を縮めるのだ。
それからのことは、また今度考えよう。
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案の定、悠の箸は赤飯を残して止まっていた。
教室の前にある壁掛け時計を度々確認しながら、真っ青な顔で少量の赤飯をちびちびと口に運ぶだけの行為を繰り返していた。
途中何度か私への視線も感じたし、期待しているのだろう。
よし、言おう。
少しだけ深呼吸してから、悠の赤飯の容器に手を伸ばした。
「悠、それ私が食べるよ」
悠がびくっと、反応を示した後こちらを見た。
わずかに頬が緩んでいた。
「わ、悪いよ……先週も食べてくれたし、自分で食べれるよぅ」
悠は明らかに形だけの遠慮を示した。
もう一押し。
「でも、赤飯嫌いでしょう?無理しなくていいんだよ」
悠は言葉に少し詰まっているようだった。
少しだけ沈黙が続く。
両者にとって不要な遠慮をして、思考を巡らせているのだろう。
いつものように、追加で形式的な提案をした。
「じゃあ、私のサラダ食べてよ。交換ならいいでしょう?」
悠でも食べきれる量に調節した私のサラダとの交換を持ち掛けた。
「え、と……うん、ありがとう」
一瞬だったけど、悠の表情はパッと明るくなり、考える振りも忘れてすぐにそう返した。
こんなことで、絆されるのだからやはり期待していたのだとわかり、内心ホッとする。
同意を得ることができたので、悠の容器と私の容器を交換した。
一口分の赤飯を箸でつかみ口元へもっていく。
少しだけ、はしたないかもしれないけど、悠の食べかけを口に運ぶとき、いつも胸がドキドキする。
広義での間接キスに、性的な興奮を感じた。
興奮のせいか、赤飯の味は感じられなかったが、脳がしびれるような味がした。
この興奮のために、彼を助ける振りをする自分に対して罪悪感を感じたけど、先の悠の表情から内心喜んでくれているという事実が私の行動を正当化してくれる。
ちらりと悠を見ると、悠は意識してないだろうけど赤飯よりも真っ赤な顔で、私の咀嚼している口元を流し見していた。
また、それにも胸がドキドキした。
彼からにじみ出る、自覚のない性的興奮に。
また、それを向けられていることに対して胸が躍った。
悠も、私と交換したサラダに箸を伸ばし口元に運ぶ。
さらに赤くした彼の表情が、赤飯を甘くした。
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