第89話

想いが通じ合ったとは言えイトカの中で決別の意志は変わらず、むしろ社長の自分に対する愛情を感じられたからこそ、離れる事への決意がしっかり固まった。


 せっかく両想いなのに誰だって好きな人と離れる事を望む者はいないし、自ら悲しい道を選ぶなんてしたくない。

 しかし、好きだからこそ、時には相手を守って自分が犠牲にならないといけない事もある。


 イトカはそう自分に言い聞かせて翌朝、荷物をすべてまとめた。


 『短い間でしたがお世話になりました。住む世界の違いすぎる環境と悪魔のような社長の下で働いた事、我ながら本当に頑張ったと思います。だから私は実家に帰り、田舎暮らしに戻ってしばらく落ち着きます。今後の会社の益々のご発展と社長のご成功を心より願っています。

 追伸:社長、甘いモノの克服に努力してください』



 『貴方を大切に想っております』



 1枚の手紙に想いを記し最後にそう綴ると、社長の家に残して去っていった。



 奇しくもその日は社長が上層部に最終意思決定を伝え、彼の進退が決まる日。

 そして同時にイトカがこの街に、社長の元に最初に来た同じ日でもある。

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