第86話

『そうだよな…』と悲しげな表情で料理を見つめ、溜め息交じりにポツリと呟いた社長。

 そんな顔をした彼を見るのは初めてで複雑な思いばかりが募る。


 『社長としての責務だ』くらいの偉そうな発言を本人にしてしまったが、本当はイトカが1番、彼と離れる事を辛く悲しく思っていた。

 だからこの決断は想像していた以上に苦しいもの。


「なぁ……1つ、聞いても良いか?」


 悲しげな表情のまま視線を料理からイトカへと移すと、小さく問い掛ける社長。

 彼女は首を縦に振って応えた。


「お前は……俺が嫌いか?」

「え……?」

「勝手な判断で巻き込んだ事、恨んでいるか? 憎んでいるか?」


 社長の口から発せられた質問に、イトカは目を丸くしながら思わず叫んだ。


「何バカな事を言っているんですか!? そんなわけないじゃないですか!!」


 と、あまりの興奮に社長に対して”バカ”だと言った事すら気にも留めていなかったが、社長もそれに対して怒るどころかホッとした表情をする。


「それなら良かった。その気持ちで十分だ……」


 驚くほど穏やかな表情で素直だった―――

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