第26話

『秘書として選ばれたのはシバ社長が私を誰よりも特別に想っているから。私も彼を誰よりも尊敬している』


 歪んだ忠誠心と奪われる恐怖から、彼女の心は間違った方向へと進んでいった―――


「木瀬さん。まだ全然汚れているじゃないですか。掃除くらいまともにやったらどうです?」


 社長と帰宅後、今まで物静かに淑やかだった鮫島は人が変わったように殺伐とした態度と物言いで、直接イトカを罵倒した。

 それはまるで、昔読んだ童話に出てくる継母のよう。


 だがしかし。1つ違ったのは、負けん気の強いイトカの性格だ。


「あらそうですわね。他の床はすごく綺麗なのに、鮫島秘書が歩いたところだけが汚れていきますね」


 屈するどころか売られた喧嘩を買っていく。


 もちろんこんな態度、鮫島が社長の前でするはずもなく留守を見計らっての横暴だった。


「あ、シバ社長! おかえりなさいませッ 珈琲をご用意しました! あとその……珈琲に合うお菓子も作ったので宜しければ……」


 社長が戻ってくれば秘書ではなく”女”としての変貌ぶり。いつの間にか用意していた手作り菓子を差し出すほど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る