第10話
トートバックから手帳を取り出す。
フユキが去年のクリスマスにプレゼントしてくれた深い青色の革の手帳。
予定を確認する。今日は水曜日。
喧嘩をしても、会えなくても、土曜日を誰かに奪われても。
どこかで気持ちが許していて、どこかで許さないといけないような気がしてしまう。
それはきっと、私に秘密があるからだ。
フユキに言えないたったひとつの秘密は、私に嘘の優しさを与える。
私が優しいわけがない。
優しいふりをするのは嘘の代償であり、
周りから優しい人だと思われたい真面目すぎる私の計算。
そんなずるさに気付いたにも最近だった。
私は真面目でも優しくもない。
その発見はショックだった。ショックだったのにどこかで安堵した。
これがナツという人間であり、本当の私なのだ。
手帳を閉じて、スマートフォンを握る。
さてなんと返事をしよう。
「私も怒ってごめん。
土曜日はいいよ。気にしないで。
お仕事頑張ってね。
また一緒に出かけよう。」
私は0点で100点の返事を送る。
この言葉に感情を乗せることはなかった。
受験のテストに似ているなと思う。
正解を知っていれば丸がもらえて加点される。
その感覚を恋人へのメールに使う日が来たことが悲しかったし、
それが出来てしまう自分の成長に言語化できない感情がある。
水曜日。
私はもうひとりの私になる。
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