二人のこと

「別れよ」

 彼女は、落ち着いた、でもはっきりととおる声で目の前の彼にそう告げた。

 彼は、下を向いてため息をついてからよそを向くと、そのままもう一度下を向いてから、すぐに顔を上げて向き直った。

「そんなに怒ることだった、、、?」

 彼は、息の多い、小さな声だった。

「怒っていない」

 彼の言葉に少し被せるように彼女は言った。

「せっかく久しぶりに会ったのに、、、」

 彼がこう言うのにも、彼女は少し被せつつ続けた。

「久しぶりだね。仕事、忙しかったもんね。」

 彼女の言葉に彼は下を向いた。

「言い方ごめん。でも本当に怒ってはいないの。」

 少し間を置いてから彼女は続けた。

「でも、悲しいのはある。言葉のひとつひとつにも、今後のことにも期待しちゃう。これはあなたのことが好きすぎるからなんだと思う。」

 彼女がここまで話すと彼は顔をあげた。

「今のままじゃ私はあなたの負担にしかなっていないと思う。会いたいって、仕事があるのに困らせるようなことも思っちゃうし、我慢もしてるけど、やっぱり怒ってるとは思われてて、仕事に集中もさせてあげれていない。」

 彼女の目が潤んでいるのが彼にもわかった。

「好きだから、もう二度と会えなくなるようなことにはなりたくない。でも、私のこの気持ちをあなたの負担にならないくらいに落ち着かせたい。だから、別れる。でも、またどこかで会いたい。だから、さよならとは言わないね。」

 でも、と、だから、のところで彼女の気持ちが語尾の強さに表れていた。最後に息を吸ってこう言った。

「またね、大好き」

 彼女がその場を離れて行くのを、彼は下を向いたまま、遠ざかっていく足音だけを聞いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある別れ 深町 祐介 @fukamati_y

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る