2-2

父は当時まだ赤ちゃんだった光嬢さえも、利用していた。


そのことに気がつき、父に激しい嫌悪感を覚えたのは、渡が高校生になってからだった。


「キャリアになれ。ノンキャリアになどなるな。それが嫌なら私のあとを継げ」


反抗するたび、父は渡にそう言った。


国家公務員と地方公務員。官僚とヒラの落差。


ノンキャリアが警察幹部になることは稀だ。


父は息子が警察官僚になることを望み、渡は父の言うことを拒否した。


地方公務員の採用試験に臨んだのだ。


大学は出たものの、渡が出世コースから外れたことに父は一言、「情けない」と呟いた。


「手柄をあげろ」


家を出る時、彼はそう言った。


「ノンキャリアでも幹部に昇り詰めた警察官はいる。お前もそうなれ」


情けない。渡は本当にそう思う。幾度反発しても、未だ父の呪縛から逃れられず、こうして彼の権力の配下にいることを思い知らされる。情けない。


こうしている間にも、時計の針は刻まれる。なんだか給料泥棒になったような気がして、渡は苦い思いを噛み締めた。


新聞には、事件のことはまだ記載されていなかった。


恐らくは夕刊に小さく記事が出るだろう。


小さな記事でも事件が新聞に載ってしまうことが渡の責任なのかと思うと、気分が重かった。今日は光嬢からも事情を聞くそうだ。


折り畳んだ新聞をテーブルの上に投げ出すと、隣に置いてあった携帯が鳴り響いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る