「魔法少女が童話を正すようです」

結晶蜘蛛

「魔法少女が童話を正すようです」


 私は母の影響で童話が好きな高校生。

 お母さまは自分で会社を経営しながら童話を書いてるの。

 だから、小さいころから一人で過ごしていたけど寂しくはなかったの。

 だって、お母さまの書いてくれた童話があったから、いっつもお母さまを隣に感じれていたもの。

 私もお母さまのように奇麗なものを作りたいと思ってて……ちょっと恥ずかしいけど、足が好きなの。

 だから、靴のデザイナーを目指して今日も勉強中。

 まだまだ先は見えないけれど、今日も頑張っていくわ』


 デザインを描くのも好きだけど、靴は人が履いてこそ。

 だから、街にいってどんなお洒落が流行っているか、あるいは、奇麗な人がいたらこの人ならどんな靴が似合うかなってのを考えてメモにとってるのよ。

 これは、お母さまの友人のデザイナーがいってた方法だから、きっと将来、役に立つと思うの。

 でも、帰りになにか兎の人形みたいなもの足元に落ちてたわ。

 子供が人形を落としのかなって思ってたら、


「ミィを拾ったのはだぁれ」

「はっ、なんだお前!?

「ミィは夢見王国のミラィ……。夢見王国から人間界にやってきたミィ」

「どういうことなの……」


 とりあえず、持って帰って話を聞いてみることにしたわ。

 ……いきなり放り出したらかわいそうだし。

 ふわふわとした白い毛並みで、胸に横になった三日月みたいな栗毛があるの。

 あの澄んだ瞳でこちらを見つめられると、……正直、無碍にするのは心が痛いわよ。


「それで夢見王国って何なの? 何をするためにこの世界に来たの?」

「夢見王国は夢が集まる場所! 人々の夢があつまってキラキラな光に照らされた暖かい場所だよ!」

「そんないいところなら何でここに……?」

「あるとき、トンザン率いるレイショウ団が攻撃を仕掛けてきて、みんなページに封印しちゃったんだ!」

「大惨事じゃない」

「それでミィは夢見王国に伝わる伝説に従って人間界にやってきた」

「伝説って?」

「夢見王国に危機が訪れたときに、魔法の力で戦ってくれる人たちが人間界にはいるんだって! ミィはそれを探しに来たんだ」

「そう……見つかるといいわね」

「ミィ!」


 ニコニコと笑うミィ。

 うん、これ、人間の世界のことは全く知らない顔ね。

 さすがにか関わっちゃった手前、このまま別れるのは気が引けるわね。


「わかったわ。……じゃあ、その人を見つけるのを手伝ってあげる」

「本当!? ありがとう、ミィ」

「でも、人前でしゃべっちゃだめよ。驚かれるから」

「ミィ!」


 ……うん、大丈夫かしら、本当に?



 そして、翌日に探すことにしたのだけど……すごい問題があったわ。


「それで手がかりはあるの?」

「なんでも、資格があるものがいればこのムーンライトリボンが反応するらしい」

「じゃあ、まったくて手がかりがないってことじゃない」


 私はため息をついた。

 とりあえず、街の中を歩いてみようかしら。

 正直あてもない話だし。

 

 ――そして、半日。

 全く手掛かりがないわ。


「見つからないねー」

「本当にそうね」


 まぁ、まったく手がかりもないから当然よね……。

 どうしたものかしら。


「ふっはっはっはっはっ! 町に夢があふれている。これは収穫のし甲斐があるぞ!」

「え、な、なに……?」

「レイショウ団! 大変、人間界でも暴れるつもりだ!」


 笑いの仮面をつけた男が宙に浮かんで、ページを1枚投げつけると、そこから大きな狼が現れました。

 おなかが縫い付けられてる狼……もしかして、7匹の子ヤギの狼!?


「あれは夢見王国で浮かんでた童話のページ! 童話たちを使って人間界の夢を刈り取るつもりだ!」

「な、なんですって……!」


 もしかして、お母さまの書いた童話まで悪用されるの!?

 そんなこと許せないわ。

 でも、私には何の力もない。

 あんな3mはありそうな怪物が暴れてるのを見ても何もできないわ。


「きゃあ!」


 と、見ると小さい子が転んでひざをすりむいていたの。

 そこに狼が襲い掛かろうとしていたわ。

 だから、――とっさに動いちゃったの。


「だめっ!」


 少女をかばった私は狼のぬいぐるみのような手で弾き飛ばされて、宙を舞った。

 そして、ごろごろと地面を転がって……全身が痛い。


「ミィ!」

「ミィちゃん、その子を逃がしてあげて……」

「わ、わかっ……! ミィ!?」



 その途端、ミィから謎のきらめきに包まれたの

 赤い光のリボンがミィの栗毛の月模様から出て、私の手首に巻き付いたわ。


「え、なにこれ!?」

「それは童話の力が込められたムーンライトリボン! それを使って変身するんだ!」

「わかったわ! ――変身!」


 リボンから赤い光があふれたの。

 私の体が光に包まれて服がリボンにほどけてドレスへと網ななおされる。

 靴も厚底のブーツから赤い靴のハイヒールのようになったわ。

 武器はそうね――やっぱり靴をつくるといったら釘を打つためのハンマーよ!


「さっきはよくもやってくれたわね!」


 武器の扱いなんてわからないけど、ハンマーなんて振り下ろせばいいでしょ!

 そして、3mはある狼を殴り飛ばしたの。

 狼は吹き飛ばされて、壁へとぶつかっていったわ。


「Grrrrrrrr―――!」


 狼が叫ぶと腹から岩を飛ばしてきたわ。

 あたしはヒールを鳴らしてそれらの岩の間をくぐっていき――


「これでおしまいよ! ムーンライトハンマー!」


 そして、赤く輝く巨大な槌で狼を殴り倒したわ。

 初めての戦闘で夢中だった……終わってから、安堵の息が強く出たの。

 そしたら、ひらひらと1枚の紙が落ちてきた。


「くそう! 覚えてろ!」


 そして、レイショウ団はどこかにいったわ。

 いろいろと気になるけれど、まず最初に気にしないといけないのは、女の子ね。

 こんなことが起きたんだもの、怖がってないといいんだけど……。


「……ねぇ、怪我はない、大丈夫?」

「うん、……お姉ちゃんがかばってくれたから。ありがとう!」

「そう、よかった……」


 うん、本当に良かった。

 少女が母親に連れていかれるのを見て、私とミラィは笑顔で去っていった。



「ところでミラィ。こんなものを拾ったんだけど、これは何なの?」

「それは夢見王国のページ! すべて集めればミィたちの封印が解けるんだ!」

「大事なものじゃない」 


 私はページをミィへと預ける。

 ミィは嬉しそうに栗毛の月模様に頁を触れさせ、溶けるように頁は消えていった。

 さっきあった戦闘あとも光と共に元に戻っていったし……本当に魔法の力なのね。


「でも、魔法使いがあたしだったなんて驚いたわ」

「ミィも驚きだよ! ……これからも助けてくれる?」


 ミラィがつぶらな瞳で私を見る。

 確かにあんな暴れるようなやつらは危険ね。

 でも、


「うん、お母さまの童話まで好き勝手されたらたまりませんもの! これからよろしくね、ミラィ」

「ミィ!」


 私とミラィは拳を合わせて、私はこの日、魔法少女となった。

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「魔法少女が童話を正すようです」 結晶蜘蛛 @crystal000

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