ヒナ

一途彩士

トリの降臨

 ぼくのもつ一番ふるい記憶は、ハカセの乾いた手で、頭の毛を撫でられていたときのほんのりとしたあたたかさ。

「よくそだてよ……」

 そのときのぼくは、ハカセがハカセであると知らなかったけど、白い姿の生き物をそういうらしい。

 ああ、もうだいじょうぶ。

 ハカセの声を聞いて、ぼくはそう思った。そして目をつぶった。

 

 目が覚めたら、ハカセはぼくをきいろい景色に連れて行った。きいろはもそもそとうごめいている。きいろいものたちはヒナとなのった。

 ヒナはぼくをこころよく受け入れてくれた。どうしてか尋ねたら

「きみはみんなと同じ姿をしてるから」

 とくちばしを揃えていった。


 ヒナたちはえさを食べ、あかるい外では走る。たのしい時間、安心できる場所。

 夜になるとヒナは箱で眠りにつく。

 ハカセは、ヒナが眠るまでしばらくそばの古い木の椅子に体を休める。ゆらゆらゆらめくあかるいものを通して、ヒナを見ていた。

 うすぐらいこの場所で、たまに、ハカセはうたをうたう。ハカセのうたが好きで、ぼくはときどき眠るフリをする。

 今日もうたが聞きたくて、みんなが寝息をたてるなか、寝ないでハカセを待っていた。

 でも、今日のハカセはへん。ヒナを見ないしうたもうたわない。

「ヒナを集めてまつりを……トリの降臨を見届け……そうすればあいつは戻って……こいつら……」

 ハカセの言うことは、ぼくにはむずかしい。

 でも、なにか胸騒ぎがする。だいじょうぶじゃない気がする。

 ぼくはハカセにばれないように眠りにもどった。


 次に空があかるくなったとき、ハカセはヒナを外に連れ出した。いつもなら自由に駆け回れるのに、箱から出る入り口を開けてはくれない。

 どうして? ぼくは一生けん命ハカセを見上げる。

「コケコッコー!」

 ハカセが叫ぶ。

 たくさんいたヒナたちは、一匹ずつ頭から姿を消していく。一瞬目を離したらヒナの数は半分になっていた。まばたきをしたらその半分に……。どうして? 答えてくれない。

 ぼくのとなりのヒナが消える。次はぼくだと思った。

「これだけでは足らんだか……」

 ハカセは悔しそうに地団駄を踏む。最後の最後で、ぼくはハカセと目が合った。

「ごめんなあ」

 泣いてるハカセの頭の上で赤いフサが風に揺られた。

 

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ヒナ 一途彩士 @beniaya

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