第19話

「小夏のことしか好きじゃないから、それ以外の人の家になんて行かないし、キスもしない」


「………そっ、か」




直球過ぎる告白に、頬が熱を帯びていく。



不可抗力だ。


まさか、悠聖からこんなことを言われる日が来るなんて、思いもしなかった。




「練習って言ったのも嘘」


「…うん」


「もし他の男とキスする日が来たら、俺のことを思い出せば良いのに、とは思うけど」




そう言ってまた、悠聖の唇が押し当てられる。



他人の唇がこんなにも柔らかいことを、生まれて初めて知った。


きっと悠聖の言う通り、他の誰かと唇を重ねるたびに、私は今日のことを思い出す羽目になるんだろうけど。




「しばらくはあんたのキスだけ覚えとく」




さっきのを真似て、その唇を一度啄んでみる。


すぐに離れて瞼を開けば、目を丸くした悠聖が顔を真っ赤に染めていた。



悠聖のそんな顔を見るのは初めてだった私は、さっきまで照れていたのも忘れて、なんだか楽しくなってしまって。


覚えたてのキスを何度も繰り返していると、ぐるりと視界が反転した。




「俺のこと好きなの?」




真っ赤な顔とは不釣り合いなくらいに真剣な瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。


雰囲気に流されて頷いてしまおうか、なんて思考が脳裏を一瞬よぎったけれど、それは誠実じゃない気がして、やめた。




「いや、別に」


「………お前さあ」


「でも、あんたとするキスは、嫌いじゃないかも」

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