第22話
第6話 見合い相手と、重なるキミ。
お見合い相手は、化粧濃く、赤い口紅を付け、胸元が少し見えるようになっているドレスを身にまとった女だった。
はぁ、やっぱりこういうタイプか……。
父は俺が胸がデカい女を好きだと思っているようで、前にお見合いした女も胸元を開けたドレスを着て来ていた。
正直に言えば、こういう胸が開いているようなファッションが全く好きでは無いし、むしろ嫌いな方なので、始まる前から気が引けた。
「本日はよろしくお願いいたしますね。」
丁寧にお辞儀をする相手に俺も応える。
こういう場面では常識だ。まあ、嫌いだけど。
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。」
「ご存知かと思いますが、私、城ヶ崎花蓮(じょうがさきかれん)と申しますわ。」
「はい、存知上げております。俺は星山翔と言います。」
「うふふ。」
「…どうかされましたか?」
「いえ、失礼。やっぱり素敵な方なんですね。今までお会いしてきた方とは雰囲気も見た目も何もかも違いますわ。」
……おい。今会ったばかりなのになんでそんなことが言えるんだよ。
見た目とか佇まいのことを褒められることは多いが、それは執事たちに昔から教育されただけで、俺自身は多分前に会ったであろうソイツらよりクズだぞ。
その言葉を恥ずかしそうに言った彼女を見ても、お世辞にも可愛いとは思えなくて、また気持ち悪くなりそうになる。
いや、でも、今日は。
西条さんも頑張ってるんだ、お見合いくらいはちゃんとこなしてあの子に会おう。
今一度息を吐き、吐き気と気持ち悪さを拭い、精一杯の営業スマイルで応える。
「ありがとうございます。そう言っていただけて大変光栄です。」
よし。ギリギリだが、なんとか笑顔を保てているぞ、偉い。それに、今回は、今までのお見合いよりいくらかマシじゃないかと思う。
まあ、相手を褒める気にはならないけど。
「星山さん。いえ、翔さんは、結婚したいということで良いんですよね…?ふふ、相手に選んでもらえて本当に嬉しいですわ。」
「いやそれは…。」
悪寒がした。
……まじで名前呼びは勘弁して欲しい。それにアンタを選んだのは俺じゃなくて父だぞ。
口に出して言えない言葉を必死に抑え込む。
無言な俺に城ヶ崎とかいう女は驚いていた。
「ち、違いますの?」
「…いずれかはしたいとは思いますけど、今は別に。父にお見合いだけはせめてしてくれと言われてまして。」
……や、やべぇ、言っちまった。
俺の言葉のせいで気まずい沈黙が流れる。
でもアンタと結婚する気は無いことだけは伝わってくれ。
「っそれなら私、ずっと待ちますわ!まずは、お付き合いから始めましょう?」
おいおいおいおい嘘だろ。
付き合う気だって最初からないんだって。
なんて言い返せば良いのか分からず、苦い顔をしながら黙り込む。
相手が西条さんならいいのに、なんて。
そんな狡いことを思い、口から出たのは。
「あ、あの~、翔さん?」
「すみません、城ヶ崎さん。…俺好きな人がいるんです。だからあなたとお付き合いは出来ません。」
敢えてしっかり苗字呼びで距離を作る。
目の前にいるのは西条さんだと思い込んで、彼女に言えない想いを伝える。
「…え?なんで。どうして。わ、私じゃ駄目なんですか?お金もあるし、翔さんが好きな見た目にいくらでもなりますし、尽くしますわよ?それに、あなたを惚れさせてみせますから、そんなこと仰らないでくださいっ。」
「いや本当にすみませんがはっきりとお断りさせていただきますね。お金とか、見た目とか、そういうことじゃないんです。俺は、その人の心や仕草、優しさ全てに心の底から惚れてます。」
「え…」
「正直、他の人のことなんて考えられないくらい。今日はその人が頑張っているので、重い腰を上げて出て来ただけなんです。」
「そ、そんな。」
「あなたには大変申し訳ないですが、今日の見合いはなかったことにしてください。
お金ならこちらが持つので。お好きに最後までお食事していってください。では。」
言い切った時、不思議と心がスカッとした。
走ることは出来ないが気持ち早めに歩いて執事の元へ戻る。
「ま!まって、」と強請るように言う彼女には、悪いが振り返る気なんてない。
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