可愛いいもうと

hibana

可愛いいもうと

「中古ショップで雛人形買うなんて、何考えてるのかしらお義母さん」

「文句ばかり言うなよ、せっかく買ってもらったんだから。こんなに立派なのまともに買ったらいくらになると思ってるんだ」

「はあ……これ、中古なのに綺麗すぎて気持ちが悪いわ」


 父と母がそのように言い合っていたのをよく覚えています。そういうわけで、我が家の雛人形はとりわけ母に不評でした。私なんかはまだ子供でしたから、中古と新品の違いもわかりませんでしたし、愛嬌あるお雛様の顔が嫌いじゃありませんでした。母の言う通り、新品と見違うほど綺麗でしたしね。それに、姉も大層気に入っておりました。


 私と姉は仲のいい姉妹だったと思います。大きな喧嘩をした覚えもありません。

 姉はどうしてだか私のものばかり貸して貸してと言うタチでしたが、それを不満に思ったことはありませんでした。姉から大切に思われていることは幼いながらによくわかっていましたし、何より姉に貸したものが戻ってこなかったことは一度もありませんでしたから。


 父が出て行った日も、これから二人支え合って生きていこうと固く抱き合ったものです。

 それでもやっぱり私が学校へ通う頃には、姉との距離は随分あいていたように感じます。自然なことのように思っていましたが、今思えば姉の方から私を遠ざけたのかもしれません。本当に姉にべったりな子供でしたから。


 私が小学校を卒業する頃には、母に恋人いいひとがおりました。寂しかったですよ。多感な時期でしたしね。

 それで、あの日は​────

 中学二年生の春でした。ええ、もうすぐ三年生になる年の、三月のことです。母の恋人あのひとに迫られたのは。


 細かいことは言いませんけど、すんでのところで逃げ出しました。それからこわくてこわくて私、押し入れに逃げ込んだんです。あの時は、学校から帰ってきたばかりでまだ制服を着たままだったかな。押し入れに隠れるなんて、まるで子供の頃きつく叱られた時みたいでした。

 そうしたらいつの間にか、隣におねえちゃんがいたんです。私とおんなじように膝を抱えて、私のことを見てました。


 久しぶりにおねえちゃんの顔を見て私、安心しちゃって。わあわあ泣きました。

 そうしたらおねえちゃんは膝立ちになって私を見下ろしました。

 かーしーて、って言ったんです。からだを貸して、って。あの愛嬌のある目で、私のことを愛おしげに見てました。

 いいよ、って言いましたよ。この時ばかりは、返ってこなくたっていいと思いました。そのままいなくなっちゃいたいくらいでしたから。


 そこからは何も覚えていません。でもあの人、いなくなっちゃったんですね。それで色んな人から、あの日何があったか訊かれました。だからおねえちゃんが助けてくれたって言ったんですが、私に姉なんかいないってみんな口々に言いました。母だけが話を聞いて「あっそう」と否定しませんでした。何か思うところがあったのか、たんに興味がなかったのかわかりませんけど。

 姉とはそれっきり、会えなくて。

 あの時何が起きたのか、あの人はどこへ行ってしまったのか、私にはわかりません。


 でも私も大人になりましたから、わかることもあります。

 母がお雛様を「綺麗すぎて気持ちが悪い」と言った意味。新品同様に売りに出されたお雛様の意味を。


 供養、ですか?

 姉が望むならしてあげたいと思いますけど。でも、そうじゃないのなら────

 家族ですから。同じお墓に入るつもりです。

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