雑記

nvfdisak

テニスボール(黄)

 高一か高二のときだったかなぁ。体育の授業で、テニスボールを使ったテストがあったんだ。前から投げたボールを後ろ手でキャッチしたり、片手でお手玉をやれとかそういうくだらないの。クラウンでもあるまいし、むろん僕はそんなの出来なかった。そこで、先生がこれじゃまずいと言って、学校のテニスボールを僕に貸してくれたんだ。家で自主練しろってね。でもやったのは一回だけだったな。部屋の隅におっぽったきり、全くしなかった。

 そのうちテストの日が来て、借りていたボールを学校に持っていこうとしたんだけど、家に忘れちゃった。テストは別のを借りたから受けることが出来たよ。落ちちゃったけど。とまあそんな感じで、返すタイミングを逃して、先生からも何も言われないもんだから、ボールはずっと僕の部屋に置いてあったんだ。

 でも高三終わりかけの今、それをようやく返そうと思うよ。僕はテニスをやらないから、こんなの持ってたってなんの役にも立たないしね。忘れないようにボールをカバンに入れる。想像より随分軽く、これに触ったのは久しぶりなことに気づいた。明日は退屈な卒業式だ。


 

 

 翌日の式後、僕はボールを持って体育の先生に会おうと、校舎を一周したんだけど、彼は見当たらなかった。会場に残っているのかな。でもこれ以上歩き回るのは億劫だ。

 そこでこいつを、校舎のどこかに置いて帰ることにしたんだ。このテニスボールは多分に漏れず、ド派手な蛍光の黄色だったから、通りがかった誰かが見つけて、体育倉庫に届けてくれることを期待してね。

 適当に入った空き教室は、他のと違って埃臭くない、いい感じの場所だった。ここならお前も耐えられるだろう。僕はテニスボールを、教卓の中央に座らせてやった。

 


 

 高校最後の下校は気持ちいいもんだったよ。吹いてくる風は爽やかで、プラタナスの葉をくすぐるし、陽光は暖かいんだ。僕は梶井基次郎の「檸檬」みたいに、置いて来た真っ黄のテニスボールは、実は爆弾だったという想像をしてみる。

 あのくそったれな学校が木っ端微塵になれば、どんなに愉快なことだろう!

 

 

 

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