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確かに怪しいけど自覚してたんだ。
それより怪しい人は決まって怪しい者じゃないって言うよね。
しかも“一応”ってなんだろう。
本当の怪しい人は“一応”なんて使いませんよ。
そう考えると、彼は面白い人なのかな、思い小さく笑みが漏れてしまった。
「あ、何笑ってるの。本当に怪しくないからね」
「ふふ、分かってます。必死ですね」
「そりゃ、必死にもなりますよ」
誤解されては困る、と未だに少し笑いが漏れる私を困り顔で見る彼に私は訊いてしまった。
「あの、なんで着物着てるんですか?」
言ってから自分の言動に気づいた。
どこにでも居る女子大生がそんなことを訊いてもよかったのか、と。
そして私は訊いてどうするのだ、と。
そうさせたのはきっとその場の雰囲気の所為だろう。
しかし、こればかりは気になる。
誰もが気になって訊いてしまうはず。
それを私は代弁したのだ。しょうがない。
笑いが収まった私のその問いに、次は彼が吹き出す。
「ふはっ、そうだよね、気になるよね」
私は笑い出した彼の言葉に小さく頷いた。
そして彼は少し悩んで言った。
「んー、そうだなあ。和服愛好家、とでも言っとこうかな」
「和服愛好家…」
彼の答えを小さく繰り返すと、うん、と彼は微笑んで頷く。
和服愛好家。
本当か本当ではないのか微妙な答えだ。
和服フェチなら聞いたことあるけど和服愛好家も同じ様なものかな?
あまり聞いたことがないから分からない。
まあ、誰だって知られたくないことくらいあるよね。深くは訊かないでおこう。
訊いても答えてくれるかは分からないだろうし。
そう察していると和服愛好家の彼は静かに立ち上がった。
昨日は少し遠目から見ただけで分からなかっけど意外と背が高いんだ。
線が細くて着物がよく似合う。
立ち上がった彼を見上げて思った。
「そろそろ帰りますね」
彼は微笑んで言う。
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