ヘリコニア
1
そこは木々に覆われていて外からは見えないが、その林を抜けると広く芝生の敷かれた広場に出る。
真ん中には大きな木が生えており、すぐ側にはベンチがある、そんな少し小高い丘だった。
その丘は外から中が見えなければ、中から外も見えない。
勿論すぐ下にある街も見えない。
しかし緑の広がるその広場はとても綺麗で、殆どの木々の葉が枯れ落ちる冬の景色も、また綺麗だと思わせた。
そしてどの季節も今いるところは都心なのだということを忘れさせるほど静か。
そこが私のお気に入りの場所で、この都会の中で唯一心を休めることの出来る場所だった。
今日も私はその丘のベンチに座っている。
天気は快晴で見上げると何の障害物もなく、雲一つない綺麗な空がよく見える。
本当に静かで気持ちがいい。
嫌なこともすべて忘れ去るほど落ち着くその静けさは私の心を落ち着かせるのには十分だった。
きっと田舎だったら鳥の鳴き声が目立って聴こえてくるのだろう。
しかしここは都会。
鳩くらいはいるだろうが田舎ほど種類は多くないだろう。
……私が知らないだけなのかもしれないけれど。
「すぅっ」
和んでいた私は一息、そこの綺麗な空気を吸い込みいつものようにフルートを吹く。
綺麗な透き通った音がその広場に響いた。
こんなに伸び伸びとフルートを吹くことなんてプロのフルーティストでも滅多に味わえないだろう。
音が響いて自分の元へ返ってくる大きなホールとは違い、外ではどこまでも音が伸びていく。
自分の元へは戻ってこない。
故に音程がとても不安定。
だけど、そんなことは気にしなくてもいいのだ。
何せ、今ここにいるのは、この音を聴いているのは私一人だけなのだから。
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