第7話『通学途中の異変』

千早 零式勧請戦闘姫 2040  


07『通学途中の異変』 





 未来の自転車は空を飛ぶぞぉ。



 保育所の年長さんの時、ぞうさん組の先生が言っていた。


 車の5%は空を飛ぶ時代なのだから自転車だって空を飛ぶだろうと千早は思った。自転車が空を飛ぶようになったら貞治といっしょに飛んでみたいとも思った。


 しかし、それから十年ちょっと未来の今日(こんにち)、九尾市の空を飛んでいる自転車は無い。



 千早は貞治と前後に連なって通学の途中だ。



「あ、やっと撤去にかかったぁ」


 三本松の角を曲がると右手に三十年ものの太陽光発電プラントがあったのだが、それが、解体撤去が決定して四年、いや五年目の春、ようやく解体にこぎつけた。


『国の補助がやっとついたらしいぞ』


 ハンドルの上に1/4サイズで現れた貞治が――ざまあみろ――という顔で応える。


 空飛ぶ自転車は存在しないが、自転車のハンドルは多機能化し、前後を走っている人間のホログラムを1/4サイズで表示して会話できるようになっている。


 この機能が付いてから横に二列や三列になって走る自転車が劇的に減った。


 横目で相手を見て地声で喋るより、目の前に姿が見えて指向性の強いスピーカーから声が聞こえる方がいいに決まっている。


 最大五人までと話しができるが、道が混んでくると自動でホログラムは消えて音声だけになる。


――昔は、道幅いっぱいに広がって登下校して苦情が殺到したものです――


 こないだの離任式で校長先生が言っていたのを思い出す。


「プラントのあとは、なにができるんだろ?」


『田んぼになるって親父が言ってたぞ』


「おお、そりゃ楽しみだね」


『ああ、九尾丘の風車も撤去されたし、いい感じになるぜ』


 二十一世紀も半ばにさしかかり、太陽光や風力のエコ発電は、ミニ原発と深海からの採掘が商業ベースに乗ってきた化石燃料に置き換わりつつある。核融合炉さえも試験運転の目途が立つ今日、エネルギー事情は濃尾平野でも変わろうとしている。


 やっぱり濃尾平野には田んぼが似合うと思う千早だ。


 撤去工事は三分ほどの進捗状況で、角を曲がって100メートルも行くと相変わらずパネルの海が広がって――むかつくぅ――と思ったら貞治が消えた。後ろから自動車が接近して来たので、安全のため自動でオフになったのだ。


 プップ


 短くクラクションが鳴ったと思ったら農協の田中さんの車だ。


「昨日はどうも!」


 短いお礼の言葉は聞こえたのかどうかは分からないが、運転席の田中さんはニッコリ笑って手を振ってくれた。


 ブォォォ


 小さいが小気味いい加速音をさせて、農協のハイブリッドは二人を追い越していく。まだ農協の始業時間には間があるのだろうけど、働き者の田中さんは、お得意様周りの営業に出ているのだ。


「働き者だなあ、田中さん」


 蘇った貞治のホログラムが牧師の父親に似た笑顔で言う。時にはケンカもする幼なじみだが、この笑顔は褒めてやっていいと思う千早だ。


 あ!


 どこから風が吹いたのか、解体中のパネルがフワっと宙に舞い、田中さんの車目がけて飛んでいく!


 危ない!


 ピシ!


 瞬間氷結するような音がして時間が停まってしまった。




☆・主な登場人物


八乙女千早          浦安八幡神社の侍女

八乙女挿(かざし)      千早の姉

八乙女介麻呂         千早の祖父

神産巣日神         カミムスビノカミ     

来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子

天野明里           日本で最年少の九尾市市長

天野太郎           明里の兄

田中           農協の営業マン

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