140世紀のひなまつり
蒼井シフト
北極星がベガに移る頃
その日、メタスラ人の調査船は、興奮に包まれていた。
テラ人の遺物が発見されたからだ。
テラは氷の惑星だった。すべてが厚い氷に閉ざされている。
衛星軌道上のデブリ(宇宙ゴミ)から、かつて知的生命体――テラ人――がこの星に住んでいた、と考えられている。
発掘調査が繰り返し実施された。
だが、氷河による浸食で、地表の遺物は悉く破壊されていた。
今回初めて、破壊を免れた遺物が発見されたのだ。
**
調査船に運び込まれた遺物は、階段状の台だった。
台の上に、細長い物体が並んでいる。
「これがテラ人だ!」
マンジュは興奮した様子で、ぶるっと震えると、隣のヴォタモを小突いた。
「決めつけるのは早いんじゃないか?」
「いや。そう判断する材料があるんだ」
そう言って、マンジュは金属の板を取り出した。
太陽系外で発見された探査機。
その中に格納されていた、金属板。
マンジュが所有するのは、そのレプリカである。
表面には、いくつか絵が描かれている。
一つは探査機自体だと分かった。
その前にある2つの絵。これがテラ人と推測されていた。
テラ人には、本体と頭部があり、本体から棒が突き出している。
マンジュたちには、そのように見えるのだ。
右のテラ人には4本、左のテラ人には5本の棒がある。
それぞれ「四棒体」「五棒体」と命名されていた。
「この金属板の画像と、似ている」
「このひらひらしたものは何だ?」
「分からない。宇宙服かな?」
「自分たちの星なのに??」
不思議に思いながらも、マンジュは慎重に、服を脱がせた。そして。
「そんな馬鹿な!」
愕然とした。
本体と頭部は、ある。
だが、棒が二本しかなかったのだ。
彼らから見ると、これは「二棒体」であって、「四棒体」「五棒体」とは、全く異なる物体と認識された。
「テラ人じゃなかったのか・・・」
**
3か月後。
「おい、これを見てくれ!」
マンジュは再び、興奮した様子で、観測室に転がり込むと、ヴォタモに体当たりした。
空中に、画像を次々と並べる。
遺物周辺の残骸から、バイナリデータも発見された。
大部分が未解明だが、画像データを抽出することには成功していた。
画像の内容は多岐に渡るが、
最も多く映っていたのは、「四棒体」と「五棒体」だった。
これにより、この惑星がテラ人の居住星であることは、ほぼ確定した。
ところが!
画像の中に、「六棒体」が発見されたのである。
「六棒体」の棒の一本は、他の棒と同じ平面上にはなく、本体に対して垂直に突き出ていた。
この発見を受け、画像データの抽出が、大規模に実施された。
その結果、次々と、棒の数が異なる個体が発見されたのだ。
「とうとう、こんなものがあったんだ!」
マンジュが見つけた画像。
そこには、本体と頭部のみで、棒のない「ゼロ棒体」が写っていた。
「棒の数は、四本・五本と決まっているわけでは、ないのだな」
ヴォタモが、感慨深げにつぶやいた。
**
現在、テラ人の生態は、以下のように推測されている。
・テラ人の身体には、棒が0~8本のヴァリエーションがある。
具体的には、
棒のない「ゼロ棒体」。
棒2本のみの「二棒体」。
多数を占める「四棒体」と「五棒体」。
垂直に棒が生えた「α五棒体」「α六棒体」。
頭部に2本の棒が生えた「β六棒体」「β七棒体」。
そして、垂直の棒と頭部の棒を併せ持つ、「γ七棒体」「γ八棒体」。
・テラ人は「ゼロ棒体」として誕生し、歳月と共に棒の数が増える。
これは、「α五棒体」以上の画像が極めて少ないことから、そのように推測されたのだった。
「ところで、テラ人は目を覚ましたのか?」
「いや、まだだ」
メタスラ人は、真空や低温に晒されると仮眠状態になる。
その状態で長期間放置されても、適切な環境に置かれると、活動再開する。
よって、発見された「二棒体」も、眠っているだけ。
そう信じて、疑わなかった。
高温で炙ったり、電磁波を照射したり、あるいは高速で振動させたが、目を覚まさなかった。
「あとは生物学者に任せよう」
**
マンジュは、ひな人形(のレプリカ)を見つめた。
「それにしても。こんなに小さいのに宇宙へ飛び出すなんて。
テラ人って、ガッツあるなぁ」
いつ目覚めても良いように、発見時の状態を維持して、
テラ人はずっと、階段状の台の上に、並べて保管された。
テラ人の単位系が解明され、「本当の大きさ」が判明するまで、
それから数百年の時を要したのだった。
140世紀のひなまつり 蒼井シフト @jiantailang
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