最終回 体育館に響く歌声
数週間前。陽菜は陸斗にとある相談をしていた。
「曲を変更したい?」
「はい」
「いいけど……何にするんだい?」
陽菜は楽譜を渡した。
「これは……」
「私が考えた曲でライブしたいんです」
「……」
陸斗は楽譜を手に取り、じっと見つめる。
「ダメ……ですか……?」
「いや……いい曲だね。これでいこう」
「……!本当ですか⁉」
「これコピーしてもいいかな?」
「もちろんです!」
陽菜は小さく深呼吸すると歌い始めた。
♪当たり前のように そばにいた日々が
今では宝物 心に光る
何度すれ違って 言葉失っても
君だけはいつも 笑ってくれたね
陽菜の美声に観客は思わず息を飲む。美奈も衝撃を受けたような顔をしている。
陸斗がギターを弾くと、陽菜はそのリズムに合わせて歌う。
♪気づけなかった優しさ
今ならわかるよ 本当の意味を
ありがとう 君がくれた全て
その手に包まれて 強くなれた
伝えたい想い 届くように
この歌に込めて 歌うよずっと
君へ 君へ
陽菜は匠を思い浮かべながら、2番を歌う。
♪もしも時が戻せたなら
もう一度 あの日に ただ伝えたい
「出会ってくれて 本当にありがとう」
ありがとう 君がくれた奇跡
笑い合えた日々 永遠に抱いて
どんな明日でも 忘れないよ
君と出会えた この奇跡を
君へ 君へ 届きますように
観客全員が陽菜の歌声に魅了される。
♪君へ 君へ 届きますように
歌い終わった陽菜はドキドキしながら観客を見つめる。
すると、観客の一人の拍手が聞こえ、それが段々広がっていく。
「……!」
たくさんの拍手が自分に向けられている。こんな感じなんだ……
いろんな人に称賛されるなんて……
陽菜は嬉しそうな顔をすると、誰かを見つけて大きく目を見開く。
見つめた先には拍手している匠がいた。
「間に合ってよかったね」
「うん。時間ギリギリだったけど聞けてよかった」
匠が陽菜の顔を見ると、自分に向かってニッコリと微笑んでいた。
ライブが大盛況で終わり、陽菜が退場すると、美奈が近づいてきた。
「美奈ちゃん……」
「……あんなに上手かったんだね。悔しいけど私の負けよ」
「負けって……どういうこと?」
「今回のライブ……主役は間違いなく陽菜ちゃんだった。歌も……場の支配も……全部負けた……」
美奈は頭を下げる。
「陽菜ちゃんを見くびって……ひどいこと言ってごめん」
「……顔を上げてよ。私は大丈夫だから。それに私は美奈ちゃんの歌好きだよ」
「……!ありがとう」
「美奈ちゃんも歌手目指しているんでしょ?お互い頑張ろうよ!」
「うん!」
ライブの片づけが終わり、陽菜は体育館を出ると、匠が待っていた。
「匠君!来てくれてありがとう!」
「歌……凄く上手だったよ」
「そう言ってもらえて嬉しいよ!」
「それに……あの時より上手くなったね」
「あの時って?」
「子供の頃に聴かせてくれた時より上手だった」
「……!覚えててくれたんだ」
「確証はなかったけどね。でも今日、陽菜の歌を聴いて確信に変わったよ」
「そっか……」
「約束通り。歌を聴きにきたよ。陽菜」
匠の顔を見て、あの時の匠を思い出す。
「ありがとう!」
陽菜は匠に抱きつく。
「……!陽菜⁉」
「私が本気で歌手を目指すって決めたきっかけが匠君だったから、聴いてくれて凄く嬉しい。それに……匠君といるのが学校で一番楽しい」
「陽菜……」
「私、匠君のことが好き。だから、私の恋人になってくれる?」
「……!」
匠は驚いた表情になる。
「……僕も陽菜といるのは学校で一番楽しい。今日のライブを見て、陽菜が綺麗と思った。初めて出会ったあの時も。歌っている陽菜が輝いて見えたから」
匠は真っ直ぐな目で陽菜を見つめる。
「僕も陽菜のことが好き。陽菜が歌手として輝くところをそばで見てみたい」
「~~~!やった~!」
陽菜は嬉しそうに匠を抱きしめる。
「じゃあ今から恋人だね!私たち!」
「そうだけど……恥ずかしいよ……」
「いいじゃん!恋人なんだから。それともキスがいい?」
「そ、それはまだ早いから」
「え~……じゃあ匠君がキスしてくれるのを待ってるからね」
「……!」
匠は恥ずかしそうに顔を赤くする。
二人のやり取りを陰ながら修也と夕香が見つめていた。
「……感想言おうと思ったけど家で言った方がよさそうね」
「陽菜ちゃん歌上手だったな。感動しちゃったよ」
「陽菜は小さい頃から歌うことが好きだったからね」
「それにしても陽菜ちゃんも彼氏ができるとは……まぁ姉妹そろって可愛いからな」
「お父さんが知ったら気絶するかも」
「夕香のお父さんって厳しい人なの?」
「私たちを溺愛してたからね。単身赴任で海外に行く前も何度も寂しいって言われたし」
「へぇ……夕香のお父さんに会ってみたいなぁ」
「その時が私たちが破局する時でしょうね」
夕香が校舎に向かう。
「えっ⁉お義父さんって交際認めてくれないの⁉」
「多分ね」
「その時は夕香も反論してくれよ」
「なんで私が……」
「夕香は俺と別れたいのか?」
修也は不満そうに頬を膨らませる。
「はぁ~……仕方ないわね」
「やった~!ってことは別れたくないってことで解釈していいよな?」
「……当たり前でしょ。恋人なんだから」
夕香は恥ずかしそうな表情をしながら小声で言う。
「……?なんて言ったの?」
「言わない」
「教えてくれよ~!」
前を歩く夕香を修也は慌てて追いかけた。
[エピローグ]
数日後。成田空港でスーツケースを持ったガタイのいい大男がスマホで誰かに電話した。
「もしもし由紀子?……あぁ。今、成田に着いたところだ。あと2時間ぐらいで着けると思う。……あぁ。わかった」
電話を切ると、スマホの待ち受け画面に由紀子と幼い夕香と陽菜が写っていた。
「楽しみだな~。久しぶりに愛しの娘たちに会うのは」
大男がスーツケースを引っ張って歩くと同時に飛行機が離陸していくのであった。
[あとがき]
読んでいただきありがとうございました!
翌日に投稿する登場人物紹介で『あの日の歌声』は完結となります。
光星学園シリーズ第4弾の連載は現時点では未定ですが、今年中には連載できると思います。(『マシュマロが好き~外伝~』の完結後に連載予定。)
第4弾も読んでいただけると嬉しいです。連載開始までしばらくお待ちください!
鵲三笠
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