第14話 文化祭『初ライブ』
午後になり、体育館には大勢の生徒が集まっている。
「楽しみだな~ライブ!」
「しかも2人歌うなんて初めてじゃないか?」
「噂によると2人共歌が凄く上手いらしいぞ」
控室にいる陽菜はスマホをじっと見つめる。
『間に合いそう?』と送信したが、既読がついてない。
(匠君……)
スマホを鞄になおし、舞台裏に向かうと美奈がスタンバイしていた。
「陽菜ちゃん!もしかして私の歌を聞きにきてくれたの?」
「ま、まぁね……」
控室にいるとそわそわしてしまうからとは言えない。
「聞いてて。私の歌声で皆を惚れさせて……」
美奈は陽菜の耳元に近づき、囁く。
「あなたのやる気をなくしてあげる」
「……!」
「美奈ちゃん!そろそろ出番だよ!」
「は~い!」
美奈は何事もなかったかのように舞台に上がる。
「皆さ~ん!今日は軽音楽部のライブに来てくれてありがとうございます!このライブのトップボーカルを務める鈴原美奈で~す!」
観客席からの歓声が響く。
「それでは聞いてください。私の歌を」
照明が暗くなると、観客たちはドキドキしながら舞台を見る。
曲が流れ始めると、ドラムの音、ギターの音、ステージピアノの音が聞こえる。
美奈は緊張を抑えるように空気を吸うと、それを吐き出すように歌い始める。
♪放課後の空に浮かぶ ひとつの願いごと
秘密のノートに書いた
ありふれた毎日も キミと笑えば宝物
ときめきが止まらない この想い届けたいよ
キミ色に染まるよ シャイニング☆ハート
恋の魔法で 世界がきらめく
手をつないだら 夢が始まる
ずっと一緒に 走ろうよ Never end!
(すごい……)
陽菜は美奈のライブに圧倒された。
可愛い声とアイドルの曲がマッチしていて、観客も盛り上がっている。
♪キミ色に染まるよ シャイニング☆ハート
恋の魔法で 世界がきらめく
この
笑顔あふれる 夢のステージ Fly high!
美奈が決めポーズを決めると、観客がうお~!と盛り上がる。
「皆ありがとう!でもライブはまだ始まったばかり!私の歌声をもっと聞いてくれる?」
「「もちろん!」」
「ありがとう!じゃあ思いっきり歌っちゃうぞ~!」
観客席で由香は不安そうに舞台を見つめる。
(陽菜……大丈夫かしら?)
「……ということで私のライブはここまで!次は私と同じ陽菜ちゃんが歌ってくれるよ?陽菜ちゃんは私よりも歌が上手いからお楽しみに!」
観客の拍手で退場した美奈は、スタンバイしている陽菜に囁く。
「じゃあ頑張ってね。私が盛り上げたんだからまさかとは思うけど失敗しないわよね?」
「……」
陽菜は黙ったまま、舞台へと上がる。
「何黙ってるの?つまんな」
美奈は不満そうにするが、陽菜が失敗すると思うと笑みを隠せない。
(楽しみだな~)
陽菜がマイクの前に立つ。観客全員が陽菜を見ている。
(すごい人……これだけ大勢の人が私の歌を……)
空気に圧倒されていると、ギター担当の陸斗が小声で言う。
「陽菜ちゃん。挨拶」
「え、え~と……」
練習したのに口が動かない。それを美奈は嬉しそうに見つめる。
観客は不思議そうに陽菜を見つめる。
(どうしよう……なんで喋れないの……?)
陽菜のマイクを持つ手がガタガタと震えていた。
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