第12話 文化祭当日への努力

とある日の部活。匠は梓馬に文化祭で披露する舞台の脚本を提出した。


「……OK。前回指摘したところも訂正が上手くできてるし、これで大丈夫」

「本当ですか⁉」

「うん。この脚本で行こう。人数分コピーして皆に渡してくれる?」

「わかりました!ありがとうございます!」


匠は梓馬に認められたことを嬉しく感じた。


(僕の作品が先輩たちが演じて、皆に見てもらえるんだ……)


文化祭まで残り1ヶ月ちょっと。

脚本の提出が完了し、遂に役者たちの台本暗記、演技練習の時間に入る。


(陽菜はどうなんだろう……順調なのかな?)



軽音楽部の部室で、陽菜はヘッドホンで文化祭で披露する歌を聞いていた。


(歌詞は覚えた……後はリズムとメロディーを……)


考え事をしていると、部室に女子生徒がやってくる。


「こんにちは~!」


演奏練習をしていた部員たちが女子生徒に声をかける。


「美奈ちゃん!今日も可愛いね」

「ありがとうございます!」


この可愛らしい女子生徒の名前は鈴原美奈すずはらみな

先輩たちから可愛がられている軽音楽部のボーカリストだ。

美奈は文理学科なので、部活に参加できる時間も限られているが、歌声は部員全員から認められている。


「陽菜ちゃん。今日も練習に来てるの?」

「そうだけど……何?」

「練習……やめた方がいいんじゃないかなって思って」

「……どうして?」

「決まってるじゃん」


美奈は陽菜に顔を近づける。


「その歌……私が歌うことになるから」

「……!」

「光星学園が毎年文化祭で披露している軽音楽部のライブ……ボーカリストは一人でしょ?だから必然的に私が今年のボーカリストになるに決まってるじゃない」

「でも部長が……」


ガチャっとドアが開き、部長の東野陸斗ひがしのりくとが入ってきた。


「全員集まってくれ。文化祭の詳細が決まったから共有する」


全員集まると、陸斗が説明を始める。


「今までのライブは剣道場でやっていたが、毎年好評なことと、観客数が多いことから場所が体育館に変更になった」


それを聞いて部員たちがざわつく。


「時間は同じく体育館を使う演劇部と調整中だが、昼ぐらいの開催を予定している。

それでライブの流れだが……」


美奈がドキドキしながら説明を待つ。


「優秀なボーカリストが二人いるんだ。だから前半と後半に分けて二人に歌ってもらおうと思う」

「ち、ちょっと待ってください!」


美奈が手を上げる。


「どういうことですか?ボーカリストは毎年一人で歌っていたじゃないですか」

「そうだけど二人共歌が上手だから歌ってもらおうってお願いしたけど……

そういえば美奈ちゃんは授業が長くて欠席してたね。伝え忘れていて申し訳ない」

「そ、そんな……」


美奈は目論見が外れてショックを受ける。


「次は演奏についてだが……」


美奈は悔しそうに陽菜を睨みつける。


(なんでこの女も一緒に歌うのよ……私だけで十分なのに……)


そう思っていると何かに気づく。


(そうだ!これは私の方が歌が上手いって思わせるチャンスじゃない!)


美奈は不気味な笑みを浮かべる。


(私と陽菜あんたじゃ格が違うってことを文化祭で教えてあげる)



部活が終わり、陽菜が演劇部の部室に向かうと、匠と目が合った。


「匠君!一緒に帰ろう!」

「うん」


学校を出ると、文化祭の話をする。


「へぇ~!匠君の脚本、遂に認めてもらえたんだ!」

「うん。提出が間に合ってよかったよ」

「舞台見るの楽しみだな~」

「陽菜も文化祭で歌うんでしょ?」

「うん!聞きに来てくれる?」

「もちろん」


匠が歩いていると、陽菜が立ち止まる。


「あのさ……文化祭の後……時間ある?」

「あるよ?」

「その……話したいことがあるから……」

「今じゃダメなの?」

「うん」


陽菜が真剣な表情で匠を見つめる。


「わかった」

「よかった!じゃあ楽しみにしてて!」


陽菜は心の中でガッツポーズした。


(文化祭で匠君に告白する。あの時のことを思い出してほしいから……)




[あらすじ]

次回から始まる『文化祭編』で完結となります。お楽しみに!

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