第11話 初めてお弁当を作った日の反応
「ただいま!」
陽菜が帰宅すると、夕香が玄関にいた。
「おかえり。遅かったわね」
「友達とカフェ行ったり、ゲームセンターで遊んでた!」
「そう。次から遅くなる時は連絡しなさいよ」
夕香は鞄を持つと、靴を履く。
「お姉ちゃんどこに行くの?」
「買い物。明日の弁当の食材が足りないから」
「へぇ……それって修也さんの分も?」
「そうだけど?」
「……そっか」
「ご飯は冷蔵庫にあるからレンジでチンして食べてね」
「ありがとう」
夕香が家を出ると、閉まったドアを見つめる。
(匠君も私がお弁当作ったら食べてくれるかな?)
翌日。食堂で匠とご飯を食べていた陽菜は聞いてみた。
「匠君ってお弁当好き?」
「……?好きだけど?」
匠はキョトンとしたように答える。
「お弁当で好きなおかずは?」
「玉子焼きかな?」
玉子焼き……確かお姉ちゃんの得意料理だったはず。
「ありがとう!ごちそうさま!」
陽菜は急いで食器を下げる。
「ちょっと行ってくる!」
食堂を出た陽菜を匠は不思議そうに眺めていた。
(どうしたんだろう急に……)
一方、三年生のとある教室で夕香は修也とお弁当を食べていた。
「やっぱり夕香のお弁当は世界一だな!」
「大袈裟ね」
「本当だって!毎日楽しみにしてるんだぞ?」
「それはどうも」
そうは言いつつ、夕香の耳が赤くなっている。修也はそれに気づくとニヤリと笑う。
「あれ?夕香嬉しがってる?」
「はぁ⁉そんなわけないでしょ⁉」
「でも耳赤いよ?」
「これは……」
夕香が言い訳しようとすると、陽菜が教室に顔を覗かせる。
「お姉ちゃん。ちょっといい?」
夕香は気づくと、陽菜の元に近づく。
「どうしたの?陽菜がここに来るなんて珍しいじゃない」
「お姉ちゃん今日部活休みだったよね?」
「そうだけど?」
「買い物に付き合ってくれないかな?」
「別にいいけど……なんで私も行かないといけないのよ?」
「私……お弁当を作りたい人がいるの。だからお姉ちゃんに協力してほしいの!」
夕香はそれを聞いてキョトンとする。
「……わかった。じゃあ校門前で待ってて」
「やった!ありがとう!」
陽菜が喜んでいると、修也が夕香にハグしながら陽菜に近づく。
「陽菜ちゃん聞いてくれよ~。最近夕香が冷たいんだよ~。何とかならない?」
「ちょっと!ここ学校!抱きつくな!」
夕香は抵抗するが、修也の腕に捕らえられたままだ。
「気にしないでください!お姉ちゃんは素直じゃないだけで修也さんのこと大好きなんで!」
そう言った瞬間、教室がシーンとなる。
「そうだよな!ありがとう陽菜ちゃん!」
修也は恥ずかしそうに顔を赤くする夕香の頭を撫でる。
「いえいえ!ではまた!」
陽菜が機嫌よく教室から離れると、修也は夕香を見る。
すると、赤い顔を両手で隠していた。
「なんで顔隠してるの?もしかして恥ずかしかった?」
「……うっさい」
「ねぇねぇ。大好きって言ってよ」
「明日の弁当なしだから」
「なんで⁉」
放課後。陽菜は夕香と合流し、スーパーで買い物を始めた。
「何作るの?」
「玉子焼き以外決まってない」
「決めときなさいよ……とりあえず作りやすいやつの方がいいかしら?」
夕香についていくと、たどり着いたのは野菜コーナーだ。
「私の場合、バランスを考えて野菜を入れているんだけど……陽菜の場合はお浸しとかの方が作りやすいんじゃない?」
「お姉ちゃんは野菜で何作ってるの?」
「ほうれん草のお浸しとか……ピーマンのナムルとかかな。すぐできるから」
「へぇ~……それに修也さんへの愛情をたっぷり入れてるんだ」
陽菜がニヤニヤしていると、夕香がギロッと睨みつける。
「もう教えてあげないわよ」
「ごめんって!でもお姉ちゃんも少しぐらい素直になればいいのに」
「それ以上修也の話したら教えてあげないから」
「もう言わないからそれだけはやめて!」
翌日の昼休み。陽菜の席に匠がやってきた。
「陽菜。食堂行こう?」
「匠君……あのさ……」
陽菜が恥ずかしそうにもじもじしているのを、匠は不思議そうに見つめる。
「お弁当作ったから……屋上で一緒に食べない?」
「僕の分の……お弁当を……?」
「うん……どうかな?」
陽菜は恥ずかしそうに匠の返事を待つ。
「凄く嬉しいよ!ありがとう!」
「……!じゃあ行こうか」
屋上に移動して座ると、匠は陽菜から受け取ったお弁当箱を開く。
「これ……全部陽菜が作ったの?」
「半分以上はお姉ちゃんに手伝ってもらったけどね」
「食べてもいい?」
「もちろん!」
「じゃあ……いただきます」
匠は玉子焼きを口に入れると、驚いた反応をする。
「どう……かな……?」
「凄く美味しい」
「……!よかった!」
陽菜は嬉しそうな顔をする。
「でもどうしてお弁当作ったの?」
「それは……匠君にお弁当作りたかったから……」
「……!」
匠が陽菜の顔を見ると、陽菜は恥ずかしそうに目を閉じる。
「それって……」
陽菜はドキドキしながら匠の言葉を待つ。
「僕が体弱いのを気遣ってくれたの?」
「……えっ?」
陽菜はキョトンとする。
「食堂だったら栄養もあまり取れないから作ってくれたの?」
「あっ……うん……」
「嬉しいよ!ありがとう!」
「あはは……」
それもあるけど……気づいてほしいのはそれじゃなくて……
(でも……)
陽菜が匠をチラッと見ると、匠は美味しそうにお弁当を食べている。
(喜んでくれるだけで十分嬉しいな)
[おまけ](本編挿入を断念したシーン)
昼休みになると、修也はいつものように夕香に声をかける。
「夕香!お弁当プリーズ!」
「ないわよ」
「なんで?」
「昨日言ったでしょ。食堂にでも行きなさい」
「そんなぁ~夕香~」
修也が夕香の膝に甘える。
「ここ学校!離れて!」
「いいじゃん!俺たちクラス公認のカップルだし」
「そういう問題じゃない!」
言い合っていると、修也は小さな袋に気づく。
「何これ?」
「……!待ってそれは……」
袋を開けると修也の分のお弁当が入っていた。
「なんだ作ってたんだ」
「謝ってくれたら渡そうと思ってたのに……」
「謝ることなんてないぞ?」
修也のキョトンとした顔に夕香はイラッとする。
「これ美紀に食べてもらうから」
「待って!ごめんなさい!謝るからそれだけは!」
クラスメイトたちが二人に注目する。
(今日も仲良いなぁ……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます