人形師おじいちゃん

未羊

読み切り

 ある冬の日。

 わしは今日も一人黙々と人形を作っている。

 3月3日はひなまつりだ。その日までに、わしは人形を完成させねばならん。

 わしはしがない人形師。どのような人形も注文があれば作っておる。


「おじいちゃ~ん」


 里帰りしておる息子夫婦の娘、つまりはわしの孫娘が声をかけてくる。

 小学生になったばかりの孫は、息子の趣味の影響で写真を撮っておる。わしのところにやって来る時も、カメラは忘れずに首に掛けておる。


「どうしたんじゃ。わしは今、手が離せんぞ」


 そういいながらも、わしは手を止めて孫娘の相手をする。

 振り向いたわしは孫娘の持っているものに驚いた。


「賞状ではないか。どうしたんじゃ、それは」


「えへへ、私の撮った写真がコンクールで入選したの」


「おお、すごいな。ふむ……、タイトル『トリの降臨』じゃと?」


「うん、お父さんたちとキャンプした時に撮ったんだ。朝日を浴びてキラキラしてて、すごく神秘的だったよ。カメラを構える手が震えちゃったよ」


「おお、そうか。ならばわしも負けておれんな」


 父親の影響かのう。

 趣味について喋る孫娘は、大人顔負けなことがある。じゃが、その屈託のない笑顔は、まだ7歳の子どもという感じじゃな。


「おじいちゃん、何してるの?」


「仕事じゃよ。今は仕上げの時期で忙しいからのう」


「ごめんなさい。仕事、邪魔しちゃった?」


「大丈夫じゃよ。まだ2か月あるからのう。詳しい話はお昼の時に聞かせてもらうぞ」


「うん、分かった。おじいちゃん、お仕事頑張ってね」


 孫娘は、元気よく走り去っていく。

 一人になったわしは、呼吸を整えると、再び人形に向かい合った。


 それから時は流れ、今日は3月2日。

 わしは、でき上がった人形を持って息子夫婦の家を訪れた。


「お父さん、電話してくれればよかったのに」


「なに、孫を驚かせるために黙ってきたんじゃよ。さあ、お前たちも手伝っておくれ」


 息子夫婦と一緒になって、わしが持ってきた人形を飾りつけていく。孫娘が友達と遊んでいて留守なのは好都合じゃったわい。

 飾り付けを終えると、わしはその出来ばえに満足する。


「早う、戻ってこんかのう」


「ただいま~」


 ちょうど孫娘が帰ってきた。

 ふふっ、驚く顔が楽しみじゃわい。

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人形師おじいちゃん 未羊 @miyou

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