【KAC20251】とある姫さまと苦労爺inひなまつり
めいき~
厄除け
姫「これ、爺」
爺「はい、姫様」
姫「わらわの雛人形はどうなっておる」
爺「ほっほ、既に七段のを飾っておりますぞ。影長殿も影集達もいつもとは比べ物にならないくらい頑張っておりました」
姫「うむ」
控える、影長と影集。爺も何処か満足げだ。
姫「影長、例年通り。菱餅、甘酒、桜餅を使わす」
影長「ありがたき幸せ!」
姫「勿論、影集と武士達にもじゃ」
一人づつ菱餅と桜餅を上等な箱に入ったものを渡し、甘酒を柄杓で一人づつ湯呑にいれていく。この城では割とおなじみの光景だ。勿論、部下の武士達も手伝ったものは全てこの三点セットが姫の手渡しで振舞われていた。
ひな祭りとはいえ、餅をこれだけ気前よくくれる城主と言うのは中々いない。
そして、影長はチラリと桜餅の入った箱の底に欠けがあるのを見つけ口元だけで笑う。同じように影集達や武士達もお互いの箱を確認し、口元だけで笑うと「拙者早速娘に桜餅を食べさせてやりたく、今日は早退いたす」と甘酒をゆったり飲むと足早に去っていく。これも、この城ではいつもの光景なので爺は特に気にもせず。
娘が居ないものは、娘がいると思って縁側で花を見る様なものも。
姫「爺、今年はお主にも用意したのじゃ」
その言葉に涙ぐむ爺、例年なら家老の爺やには何も無かったから。
だが、当然の様に読者はこう思う事だろう。
この姫がまともなモノを渡す訳がない……と。
姫「爺、はよ湯呑をもってこんか」
未だかつてない程期待に胸を膨らませ、歴戦の人斬りも青ざめる程の気迫を持って湯呑を取りに行って戻ってくる爺。両手でゆっくりと差し出すと、姫が甘酒を湯呑の半分ほど入れた後透明なものを注ぐ。
爺「酒のいい香りがしますなぁ」
姫「スマヌが甘酒が足りんようだったので、普通の酒を足したのじゃ」
爺も、眼の前で入れていたので日本酒だと思い。姫についでもらえるのなら悪くはないか。構わぬ、今日は良き日じゃと湯呑に入った甘酒を呑んだ瞬間に腹から一気に焼ける様な酔いが回って来た。
思わず、前のめりに崩れる爺。
爺「姫様、これは何をいれたので?」
姫「ほら、これじゃ。この間バテレンが持ってきた蒸留酒なる普通の酒じゃ」
※大変危険ですので、良い子は真似しない様にして下さい。
爺「これ、火気厳禁とか書いてあるようですぞ」
姫「もっと入れた方が良いか?」
爺「いえ、結構です……」
全員が貰っているとはいえ、立派な樹の箱に菱餅と桜餅が入って越後屋の焼印が押してあるそれをぼやける視界の中で開け。
底に欠けこそ入っていないが、確かに美しい菱餅と桜餅が他の部下達同様に入っていて爺やはほっとした。
ゆっくりと箱を閉めると、よろよろと立ち上がり失礼しますと言って外に出ていく。姫は、爺やが出て行った後ひな祭りの歌を歌いながら雛人形をみつめつつ。皆の衆本当にご苦労様なのじゃと優しく微笑む。
姫「影長」
影長「はっ!」
直ぐに、眼の前に控える影長。
姫「皆は喜んでおったか?」
影長「勿論、越後屋特製ワイロ用二重底にボーナスが入った菱餅と桜餅は皆に喜ばれております。勿論菱餅も桜餅も信永堂の最高級品ですし」
※ご丁寧に底をあけると小判が敷き詰められている形式で
姫「皆がわらわのひなまつりを祝ってくれる。わらわも主として労わねばの」
そういって、影長の前にちょこんと座る。
影長「姫様……」
姫「して、爺や用すぺしゃるえでぃしょんの具合はどうなっておる」
さっきまでの慈愛に溢れた表情ではなく、どちらかというと黒い影が入った様な笑みを浮かべている姫。
影長「言いつけ通り、ワサビ、塩、唐辛子をいい塩梅で練りこんで菱餅の色を再現。越後屋は、会心の出来だともうしておりました」
うむうむと頷く姫、哀れ爺。しかし、俺はそのポジションにはなりたくないのだっと心から漏れ出る声を必死に押さえつけながら姫の問いに答える影長。
姫「桜餅の具合はどうじゃ?」
影長「様々な花粉が空気に触れた瞬間舞い上がるように、それ以外はごく普通の美味しい桜餅になる様に腐心したと」
姫「越後屋に後で、かいはつひを届けよ」
影長「はい」
姫「影長」
影長「何でしょう、姫様」
姫「ひな祭りは古来は厄除けのまじないであったそうじゃの」
影長「左様でございますか、何分学の方はさっぱりでして」
姫「爺には、今後もわらわの厄除けとして頑張ってもらいたいものじゃの」
影長「左様ですか(姫様が爺や殿にとって厄そのものではないのか)」
<おしまい>
【KAC20251】とある姫さまと苦労爺inひなまつり めいき~ @meikjy
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