黄色い花

@simo_zo

第1話 黄色い花


「ひまわり買ってきたの」

「黄色い花くださいって言ったんだ」

 六歳の私の息子は自慢げに答えた。新盆の準備をするために、じいちゃんが近所の花屋さんに初めてのお使いを頼んだ結果菊の花ではなく、ひまわりを抱えた息子が帰ってきた。

 頑固なじいちゃんがひまわりを見たら何て言うだろうと思っているとじいちゃんがやってきた。

「それは裕太が買ってきたのか」

「そうだよ」

 息子の裕太は褒めてもらえると思って、ひまわりをもってじいちゃんに駆け寄った。

「花なら何でもいいだろう。お使いできて偉いな」

 意外なことにじいちゃんは怒らずに裕太の頭をなでている。

「まあ、お使いはできたけど流石にひまわり飾るわけにはいかないから菊買ってくるよ」

「別にこの花でいいだろう」

「親戚とかばあちゃんの友達とか来るんだから、まずいんじゃないかな」

「男が細かい事言うな、花なら何でもいいだろうそのまま飾っておけ」

 じいちゃんはこうなると話を聞いてくれない。まあ本人が花なら何でもいいって言ってるんだから僕が後で花屋に行って菊を買ってきても文句は言わないだろう。

「わかったよ、僕は親父とテーブル出してくるね」


 力仕事が一通り終わったので父親に事情を話して花屋に向かった。近所の花屋に着くと店主が迎えてくれた。

「いらっしゃい」

「あのすみません午前中に子供が花を買いに来たと思うんですけど」

「ああ、黄色い花の子ね」

 よく考えるとお盆の時期になぜこの人は子供に黄色い菊じゃなくて、ひまわりを売ったんだろうと考えていると店主から声をかけられた。

「やっぱりひまわりはダメだったかしら」

「そうですね、新盆で使うので菊を貰えませんか」

 僕は店主の目を見ながら意識的に少しきつく言った、すると店主は困ったような顔をしながら少し考えるそぶりを見せてから言った。

「おじいさんは何か言ってませんでしたか」

「花なら何でもいいだろうって言ってましたよ、じいちゃんと知り合いなんですか」

「ええ、亡くなった、おばあさんとは特に仲良くさせてもらっていました。少しお話ししてもいいですか」

「はい」

 新盆の準備も大体終わったので、夕食前に戻れば問題ないだろう。


 どうやらじいちゃんとばあちゃんは花を使うときには必ずここを使っていたようだった。その際ひまわりが置いてあると、じいちゃんは帰り際に「黄色い花を一本くれ」と言ってひまわりを買っていた。

 初めは黄色い花って言われても何だかさっぱりわからなかったが、おばあさんが「ひまわりの事ですよ」と教えてくれたそうだ。いかにも頑固で不器用なじいちゃんと人当たりが良く優しいばあちゃんらしいやり取りだ。

 毎回ひまわりを買っていくのが気になっていたので、ある日ばあちゃんが一人で店の前を散歩していたので思い切って声をかけてひまわりの謎を聞いてみたらしい。

 ばあちゃんは快く答えてくれた、どうやらひまわりは二人の思い出の花らしい。

 戦争で赤紙の届いたじいちゃんは、ばあちゃんに戦争から帰ってきたら黄色い花の花畑があるからそこで待っていてくれと言って戦争に行った。どうやら僕の住む街には戦前大きなひまわり畑があったみたいだ、もちろん戦争直後はひまわりなんて無くなってしまったが。ばあちゃんは戦後毎日ひまわり畑の跡地を見に行ったそうだ、戦争から兵隊が続々引き上げてきたがじいちゃんは中々戻らずもうだめかと思ったころやっと帰ってきたらしい。

 その時じいちゃんはどこから探してきたのか、しなびたひまわりを一輪持っていた。それから二人にとってひまわりは特別な花になってじいちゃんはひまわりを買うと必ず「あの時はあんなに苦労して手に入れたのに今はこんなに簡単に手に入って本当にいい時代になったな」といってばあちゃんの化粧台の近くの一輪挿しに飾ってくれていたらしい。


「それでおじいさんが昨日一人でやってきて、明日小さな子供が黄色い花を買いに来るからそしたらいつものやつをたくさん用意してくれ。と言われたんです」

 裕太がひまわりを買ってきて褒められる訳だ。

「菊の花はやっぱりいらないです。ひまわりを用意してくれてありがとうございました」

 僕は誠心誠意お礼を言って家に帰って父親に事情を説明した、じいちゃんは菊の代わりにひまわりを嬉しそうに花瓶に飾っている。

 親戚やばあちゃんの友達は少し変な顔をしていたが、今年からお盆に飾る花はひまわりになりそうだ。


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