stage13 私はすぐに捕まえてこいと言ったのだが

 白い花が咲き乱れていた。とりあえず白ければ何でも良いような感じの、よく見ると雑多な取り合わせの花々がその空間を埋め尽くしていた。

 ここは天界だった。

「天使長様」

「何だ」

 呼ぶ声に、一人の羽の生えた男性が振り返った。少し不機嫌そうにしていた。

 これは更に機嫌を損ねてしまうに違いないと声をかけた女性は心配になりつつ答えた。

「コーネリアが失敗しているようです」

 男性は一拍後にため息をついた。

「我々の目的を故意に隠して、我々を悪く言ったのではあるまいな」

「我々は人間にとって正しいわけではないのですから」

 それはそうだが、とまた天使長はため息をついた。

「無理なことを仰らないでください」

「それでも、一応声はかけようと思ったのだが」

「少し手荒ですよ。それにコーネリアに任せたのは良くなかった」

 あの人は粗暴です、と女性は締めた。


 コウはあのカフェに行くために家を出た。家をひっくり返して探し出した、小さめのトートバッグに白猫を入れて連れて来ていた。

 夕暮れ前に乗る電車は、学生が多かった。クラスメイトがいるんじゃないかと少し辺りを見回したが、知っている顔は見当たらなかった。

 カイは別れ際、少し悔しそうにまた今度、と言った。帰ってこいと言われたとはどういう事だろう。兄がどうしたというのだろうか。言うことを聞かないでいる訳にはいかないのだろうか。カイとは長い付き合いだが、まだ彼のことで知らないこともあるのだなと思い、次会ったらそれも聞いてみようとコウは決めた。

 カフェのある南十字駅に着いて、コウは何か手土産でも買って行こうかと駅中のベーカリーに足を向けた。あの人たちの好みが何なのか、まだ知らないので、クロワッサンやデニッシュを適当にトレイに乗せた。

 高級な店構えの料理屋や個人経営であろうバーなどが明かりをつけているのが目につき、自分が住む街より雑多な感じのする土地柄に新鮮味を感じた。住宅街に住んでいるから、コウはこの街の通りの雰囲気に慣れず緊張していた。あのカフェが見えた時にはホッとした。

「こんにちは。コウです」

 ブザーを鳴らして、インターホンで挨拶をした。どうやらユリシールが出たようだった。というのも、眠い、と言うのが答えだったからだ。遠くからおそらくエリーゼが怒っているのが聞こえた。そして、ドアが開いてユリシールが姿を見せた。

「どうも。怒られた」

「そうですね・・・・・・」

 何とも言いづらく、コウは苦笑を禁じ得なかった。中に入ると、フェリが目敏くパン屋の袋に気づいて言った。

「そこのクロワッサン美味しいのよ」

「あ、そうなんですか。よく分からず買って来たんですけど、確かクロワッサンも買いましたよ」

「嬉しいわ」

 エドワードがキッチンから声を飛ばしてきた。

「この食いしん坊天使め!」

 そうフェリをからかったので、猫がにゃあと不機嫌そうな鳴き声を出した。どうやらそんな掛け合いはどうでもよく、早く食べたいようだった。白猫はパンは食べないと思うのだが、コウに食べて欲しいということだろうか。

「ご主人様の手土産にゃあ。押し頂いて味を知るべしにゃ」

「わあ、すっかり仲良いのね」

「エリーゼ・・・・・・君は毒が無いギリギリの言い方がなぜ出来るんだい、一歩間違えれば失礼だよ」

「あら、そう?」

 もう一度猫がにゃあにゃあ言うので、コウは急いでフェリにパンを渡した。

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