第五話 忘年会に着物を来て行ったら笑われて、クリスマスにういろうを持ってきた話

第31話

 十二月に入ると急にせわしくなる。

 年末の休みを見据えていろいろな仕事を前倒ししないといけない。

 焦った千与加のミスが増え、紗都がその都度フォローしていた。


 忘年会はクリスマスの二日前の土曜日になったとお知らせがあった。その日しか予約がとれなかったらしい。名目上は自由参加だが、あとあとを考えると参加しないわけにはいかない。


「忘年会かあ」

 思わずつぶやくと、隣の席の千与加が振り向いた。

「服装自由、だって。那賀野さん着物で来てくださいよ」

「さすがにそれは」

 紗都が苦笑したときだった。


「那賀野さん、着物着れるの?」

 通りがかった同僚の男性が言った。

 その言葉にメガネの女性が反応して振り向く。


「いいじゃん、大和なでしこ、着物女子!」

「趣味でときどき着る程度なんですよ」

 慌てて言い繕うが、

「忘年会、ぜひ着物で」

「着物姿見たーい!」

 千与加の言葉にメガネの女性がのっかる。


「着物、そそるよなあ」

 紗都は眉をひそめた。同僚の男性はきっとほめているのだろうけど、なんだか違う気がする。

 彼は既婚で、根は良い人のようだがセクハラになるかどうかギリギリのラインのジョークをよく言うので少しモヤモヤする。妻子がいる自分ならセクハラにはならないと思っている気配があった。ちょっとモヤモヤを略して、内心でチョモヤさんと呼んでいた。


「やだー、すけべー!」

「言い方がセクハラ」

 千与加がけらけら笑い、同僚の女性も笑う。


 一緒に愛想笑いをしながら、笑うふたりをうらやましく眺める。最初から笑って流すことができればいいのに、うまくそういうことができない。千与加のほうが年下なのに自分よりよっぽど大人だ。


「ほめてるのに」

 チョモヤさんは不服そうに言って、立ち去った。

 千与加が興味深そうに言うので、紗都は目を輝かせた。着物仲間が身近に増えるのは嬉しい。

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