第30話

「私、自分に自信がなかったの」

 黎奈の言葉に紗都は驚いた。いつでも彼女は自信満々のように見えていたから。


「だけど、着物が私に自信をくれるの。本当の自分になれたようで、うきうきした」

「私と似てるかも」


「そうなの?」

「私も自信がなくて。自信がないのは今も同じだけど、違う自分になれたようで新鮮だった」


「新しい自分って、なんか嬉しいよね」

「うん……きっと何歳になっても。今までの自分を否定するわけじゃなくて、プラスされていく感じが嬉しい」


「そっか……プラスか。引き算しなくてもいいんだ」

 黎奈は涙をぬぐい、にっこりと笑った。


「一度、着物で猫カフェ行きたいと思ってたの」

 黎奈が言い、恋人の話は終わりなんだな、と紗都は思った。


「店員さんがびっくりしそう。今度一緒に行こ!」

「行く行く! 絶対に猫コーデする!」

「私も猫の帯があるからそうしよ」

 それからはひとしきり着物の話で盛り上がり、時計を見た紗都は驚いた。もう十時を過ぎている。


「遅いし、泊ってく?」

「いいの?」

「うん。狭いうちだけど」

「ありがと。紗都さん大好き!」

「わわ!」

 黎奈に抱き着かれ、紗都は一緒に勢いよく床に倒れ込んだ。


「ご、ごめん! 大丈夫?」

 零奈は謝ってすぐに起き上がる。

「大丈夫」

 いてて、とぶつけた肘を撫でながら紗都も起き上がる。

 顔を合わせると、どちらからともなくくすくす笑いが漏れた。

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