第2話

「違うよ。女性だよ、友達!」

「なあんだー。大好きとか憧れとかいうから」

「ごめんごめん」

 彼女が謝ると、千与加は小さく口を尖らせる。


「恋したいなー。御曹司かイケメンエリート、求む!」

 千与加は机に突っ伏すようにうつむいた。

「やっぱイケメンがいいわけ?」

 同僚の男性が話に入ってきて、千与加は頷く。


「当然。性格が良くてイケメンで金持ち」

「高望みしてると行き遅れるぞ~」

「夢を語るくらいいいじゃないですか。那賀野さんはどういう人が理想ですか?」

 紗都は言葉に詰まった。こういう話題は苦手だ。


「えっと、いい人ならって感じ」

 絞り出した言葉に、男は待ってましたとばかりに畳みかける。

「そう言う人に限って理想が高いんだよね。現実見なきゃ結婚どころか恋人もできないよ?」

「なかなか出会いもなくて」

「出会いは自分で作らなくちゃさあ」

 なんでこんなにぐいぐい来るんだろう。


 男性のにやにや顔が不快だが、はは、と曖昧に笑ってごまかす。

 親切ごかしで言ってくるが、上から目線でいい気持ちになりたいだけだろう。結婚したがってると思われるのも癪だがストレートに言うと角が立つし、精神を地味に削られる。この人はいつもマウントをかましてくるから、ひそかにマウントさんと呼んでいた。


「でも今は趣味が楽しいんで」

「趣味ってなに?」

「着物にはまってるんです」

「お金持ちなんだねえ」

 マウントさんの嫌味なのか感嘆なのかわからない声音に、紗都は慌てる。


「数千円で買える安いものばっかりですよ」

「そんな安い着物あるんですか?」

 千与加が驚いて聞いてくる。


「あるの。自宅で洗えるところが気に入ってる」

「そんなものに時間使ってないでさ、男ウケする服の研究でもしたら?」

 言い置いて、彼は笑いながら去って行った。

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