矛先探し

.六条河原おにびんびn

第1話

 よくニュースで、自殺しようとしていた人を救ったって話あるじゃないですか。あれは賛否両論ですけれど、確かにボクも“ただの”自殺なら賛成派なんですよ。まぁ、せめてそんなクソみたいな人生を始めさせた親を、生きているなら人生の復讐として討っておくべきだと思うんですけど……そこの詰めの甘さが生涯に滲み出ていたのかもしれませんね。人生は傷付くことが多いのではなく、生まれた時から傷付いているんですよ。親が教えるべきはその傷を腐らせて膿ませる甘っちょろい優しさではなく、治らない傷のケジメの取り方、取らせ方なんですよ。親は子供は自分を刺さないと思っているんだから、だから平気でぽんぽん、ぽんぽん、できるんですよ。自殺するなら、殺人をするのなら、罪悪感と良心を押し切っても、まずは自分を殺せと教えておくべきなんです。あいつ等は無条件に自分が愛されていると思っている。慕われているとね……


 それはそれとして、“ただの”自殺なら賛成とは言いましたが、では何故そんな回りくどい言い方をしたか?

 見せびらかすようなパフォーマンスめいた自殺には反対だからです。あんなのは「止めてくれ」と言っているようなものですし、たとえ自殺肯定派の人間だって、わざわざ人が死ぬところをみたいワケじゃぁないんですよ。

 ま、自殺するほど追い詰められている人の気持ちなんて分かりはしませんがね。そうでしょうが。冬になったら夏の暑さを忘れ、夏になったら冬の寒さを忘れる、そういうゲンキンな生物なんですよ。

 でもね、気持ちは分かるんです。「もう取り返しのつかないところ」に自分を持っていかなければ自殺もできないってね。本能に逆らうことですからね、理性がわずかにでも残っていたらやれませんよ。追い詰められないとね。いやいや、理性による自殺もあると思います。主義・主張・思想なんかではそうじゃないですか。

 追い詰められていなくても、損切りしているということはあるかも知れませんが。

 とにかく、人の目につけば吐いた唾を呑むな方式で、もうやらなくてはならないという義務感に苛まれ、人目につくところでやるのかも知れませんね。つまり、残るのはプライドです。

 プライドを捨てればなんだってできる、なんて言う人もいますけれども、逆だと思いますよ。もうプライドに縋るしかないフェーズにあるんですよ。プライドだけが残っている。プライドだけはこびりついているんですよ。もうプライドのみで、自分を肯定するしかない。プライドを捨てる・捨てないだなんて自分で御せるものではないと思いますね。開き直れない人間もいるんですよ。つまり悪怯れてしまう人間が。自分が悪人になることに耐えきれない人間が。世界は悪人に得をするように出来ているのだなんて当たり前です。得をしないように人は「悪人」を定めたんですからね。問われるべきは、「悪人を裁く」じゃないです。お前はそれでも手前の正義を信じられるかという話なんですよ。


 自殺しようとしていた人を止める。これって素敵なことですよ。素晴らしいことです。医者でもないのに。息をしてぼうっと口開いて雨を飲んで、脳味噌が活動し心臓が鼓動を打っていれば、それを「善」としているわけです。医者ならとにかく。でも仕方がないです。だってそういうふうに教育されて刷り込まれてきたから。誰が悪いわけでもないと思うんですよ。

 人を1人、救ったわけです。



 ときに、昨日、ビル爆破事件で百何人死傷者出したでしょう。犯人も拳銃自殺したやつ。痛ましい事件でしたね。でも仕方ないですよ、後戻りできないことしないと、自分で自分を殺すこともできない人だっているんですから。

 あの人のコト、ボク知ってるんです。きっとあなたも知ってますよ。

 あの人、5年くらい前だったかな。あのビルから飛び降りようとしてたんです。覚えてますか?あなたが表彰してくれたんですよ、ボクのコト。

 あっはっは。あの時ボクが見殺しておけば、あなたの奥さんも子供も、死ななくて済んだのに。表彰状まで作って、賛辞の言葉までくれちゃって。


 さ、犯人の死んだ今、あなたのすべきことはひとつです。あの時、犯人を自殺させなかったボクを責めて、恨むことです。それとも大量殺戮者をひり出した親たちのことでも責めますか?わざわざ妻子だなんてしがらみを作ってしまった自分を責めるのもアリですがね。

<2023.5.11>

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矛先探し .六条河原おにびんびn @vivid-onibi

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