五人囃子だってロックしたい
平井敦史
第1話
ロックしたい。
俺がそう呟くと、隣の席の
「はい?
「だから、俺はロックがやりたいんだよ!」
「いやいや、駄目でしょそんなの。女の子たちの夢が壊れちゃうっすよ」
そんなの知るか、とは口にできない。
俺たちは日本の古き良き伝統を担う存在。
俺自身、そのことに誇りを
「そんな程度で壊れやしねえだろ。うちのお嬢さんだって、ロックはお好きだし」
「いや、だからって……」
などというやり取りを堤と交わしていると、もう一つ向こうの席の
「何何?
うん、まあ普通は使わねぇよな。
「ギターなら弾けるよ」
「マジで!? じゃあ、俺もやりたい!」
「は? 楽器は何をやるんだよ。
「なわけねえだろ。こう見えてもベース弾けるんだぜ」
「おお、なら結構だ! あと、ドラムは
大川のもう一つ向こうの席で、醍醐がこちらを向いた。
「おいこら、勝手に巻き込むな。まあ、やってもいいけどさ。それにしても……」
「何だよ」
「
そりゃあ、日向さんは可愛いよ。正直、憧れてた。けど別に……。
「おうおう、一途だねぇ。彼女、
「だから違うって!」
「何だか知らないけど盛り上がってるねえ」
俺たちの会話に割り込んできたのは、仲良し三人組女子の一人、
「ああ。笛吹がロックをやりたいとか言い出してさ。みんなで
大川がそう言うと、堤がびっくりしたような声で叫んだ。
「えっ! 僕も参加することになってるんすか?」
当たり前だろ。あと、当然ヴォーカルは
反対側の席を振り返ると、仰木が仕方ねえなと言いたげな表情で笑っていた。
「ねえ、堤くんは何の楽器を
桑江さんに尋ねられて、堤はかすかに頬を染めながら答えた。
「あ、うん。キーボードなら弾けるっす。……って、笛吹くん、何ニヤニヤしてるんすか!」
「
とにかくそんなわけで、俺たち五人はバンドを組むことになった。
「笛吹くんたち、バンドやるんだって? わー、聴きたい聴きたい!」
日向さんもそう言ってくれたし、もうこれはやるっきゃない。
「小田入と二人で聴きに来るんだろうな」
おいこら、大川! 余計なこと思い出させるな!
チューニングを終えて弦をかき鳴らすと、何とも言えない高揚感に包まれる。
元はと言えば、うちのお嬢さんが某ガールズバンドアニメにハマって、ギターまで買ってきてやり始めたのがきっかけだったんだよな。
あの頃は、休みの日には一日中ギターの音色が響いてたっけ。
それで俺もギターに手を出してしまったのだけれど、ふとあの頃のことを思い出して、無性に弾いてみたくなったのだ。
だから日向さんは関係ないぞ。念のため。
一ヶ月ほど練習して、今日は三月三日。
いよいよ、俺たちのバンド「ひなまつりトリッキートイズ」のお
日向さん(と小田入)や、長柄さんたちも観に来てくれている。
メインヴォーカルの仰木がマイクを握り、宣言した。
「それじゃあ一曲目、聴いてください。『だんごはおかず』!」
「なんだそれー!」
すかさず観客席からツッコミが入る。
ノリのいいやつらだ。
醍醐の精確なスティックワークと、大川の力強いベースラインがリズムを刻み、俺のギターと堤のキーボードが奏でるメロディが絡み合う。
そして、仰木の伸びやかなハスキーボイスが聴衆を魅了する。
うん、やっぱ最高だな!
最後の曲の前に、仰木のMCが入る。
「みんな、今日はありがとー! ひなまつりトリッキートイズは、いつまでも、いつまでも、ひなまつりです!!」
皆の目が点になった。
3曲演奏し終えて、ライブは大盛況のうちに幕を閉じた。
俺たちがぐったりしていると、どこからかギターの音色が聞こえてきた。
ギブソンレスポールの深みのある中低音域。
うちのお嬢さんが高校生だった頃に、某アニメの影響で、丸1年バイトして買ったやつだ。
あれからもう十五年も経つのか。早いものだ。
「色々あったよなあ」
仰木がしみじみと呟く。
そりゃあ、お嬢さんももう
受験のストレスで五キロほど太ったり、就活のストレスで円形脱毛症になったり、失恋して泣きながらギターを弾いてたこともあったっけ。
まあ、いまだに独り身なんだが……。
「最近じゃ珍しいことでもねえだろ。そのうちきっと、いい出会いもあるさ」
大川が言った。
そう願いたいものだな。
それにしても……。
お嬢さんのギターに耳を傾けながら、俺たちはお互いに顔を見合わせる。
皆の気持ちを代弁するように、堤が呟いた。
「あんまり上手くないっすね」
――Fin.
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作者は音楽はからっきしです。
本格的な演奏描写を期待された方ごめんなさいm(_ _)m
なんだかふと懐かしくなったもので……。
ロックか? はい、ロックです(断言)。
五人囃子だってロックしたい 平井敦史 @Hirai_Atsushi
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