狐のダンジョン狩り

@idd11

東京の龍について

 今日も今日とて代り映えのしない日常を生きる。データを入力、解析し、山の様な書類を片付ける。無駄な仕事、、ではないはずだ。だが、高揚感も達成感もない。


 仕事が終われば機械のようにロープウェイに詰め込まれ、自宅へ帰り就寝。


 また日が昇れば出勤。俺は何時からこんなに変わってしまったのだろう。


 人を助ける仕事を選んだはずだった。だが、消化し続けても増えていくタスク。目の前の数字を追うだけ。俺は人じゃない。ただの人形だ。いや、単なる歯車に過ぎない。

 生産性の感じられない作業をこなしていき、気が付けば自分の時間、人生がすり減っていく。


 その日も5時間の残業後にオフィスを出てそのまま4階のロープウェイ乗り場へ向かう。


 無人運転のゴンドラが音もなく滑り込み、俺同様、死んだ表情をした大人たちがゴンドラに乗り込んでいく。


「本日もご利用頂きまして有難うございます。このゴンドラは、〇〇ビル経由、○○駅前行きでございます」

 

 無感情に案内音声が告げ、ゴンドラは静かに駅から動き出す。

 最初から席に座ることはあきらめて、俺は窓によりかかり放心した。


 何気なく車内モニタに目をやる。たわいもない広告、ニュースが流れていく。AIアナウンサーが淡々とニュースを読み上げる。

 地方ニュースから全国ニュースへ。

 旧首都復興に関するニュースが流れ出し、不穏なものを感じたが、目が離せない。案の定映像が切り替わり、そこに忌々しいものが映っていた。内心で舌打ちする。

 

 それは、ビルとビルの谷間にうずくまるように存在する巨大な生物の死骸。高さ90mの巨大な体躯の3つ首の竜だ。我が国、いや人類の在り方を大きく変えた存在。あのデカ物さえいなければ、俺の人生もこの社会ももう少しましだったのだろうか。


 海から前触れもなく上陸したそれは、ビルをなぎ倒しながら街を破壊しつくした。時間にして数分。

 それの進行経路にある構造物はまるで紙か砂でできているかのように簡単に崩れ落ち、街は一瞬で崩壊した。

 人類の通常兵器は役に立たず、それの吐く熱線によりミサイル、戦闘機、ドロンは一瞬で塵と化した。

 その進行は核兵器でも止まらなかった。


 核兵器。


 国連が使用に踏み切った理由は竜の進化スピードにあった。

 経時的に竜は形態を変化させていった。首一つから3つ首へ。更に有翼へ。


 竜の更なる進化、果ては他国への惨禍の拡大をおそれ、国連の指示により竜を標的に核兵器は使用された。2発が竜の熱線により無効化され、1弾が被弾。


 だが核兵器が命中したにも関わらずあの竜は無傷で爆心地に立っていた。


 核兵器が効果なし、と分かった人類は絶望した。もちろんこの国の国民も我先に国外逃亡を図った。だが予想に反し竜はその半日後活動を停止した。


 竜が活動停止した理由は今も分からない。核兵器が何らかの影響を及ぼしたのか。だが、そのおかげで人類は生き延びた。


 そして今、ギドラと命名された竜は国連の管理下に置かれている。放射線汚染区域となったかつての首都のど真ん中で。厳重なフェンスに包まれて。


 そうか。今日はあの竜が出現した日か。もう20年になるのか。ニュースでは竜の体組織の研究が進行していること、除染作業の見通しなどを淡々と説明している。


 だいぶ綺麗になったものだな。あのこの世の終わりの様だった風景がこうも綺麗になるとは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る