異世界転生よりも彼女が怖い

@awkward_boy

エピソード1 18歳僕、恋を知る。

 「さらば諸君!いつかまた会おう」僕はかれんにそう言い放って、ハッチを閉める。


 さあ、楽しいクッキングの時間だ。いでよワームホール!僕は重力発生装置のボタンに手をかける。


 「待ってください博士。私も連れて行ってください、あなた無しでは...」


 ゴンゴンと叩く音。うるさいな、ちょっと静かにしてくれよ...


 「なんだ?」僕は、ハッチを開ける。


 「あなた無しでは、私は生きていけない......とでも言うと思ったか?バーカ」


 助手のパーカー君(バーカー君ではない)が、暴言を吐きながら現れる。


 「そんなことを言いに僕を引き留めたのか?しかし、僕には君が泣いているように見えるがね…」


 「あなたがいなくなったら、あなたがいなくなったら、私は自分の研究をするわ!あなたの研究は全部水の泡になる!」彼女は早口でまくし立てる。


 「好きにしろ」僕は、再びハッチを閉める。


 彼女はまだ何か言っている。頼むから静かにしてくれ。


 「奥さんに、実は私とデキてたって言うわよ?」


 ガラス越しに聞こえる声は、少し歪んで聞こえる。ん、今なんて?


 「博士のスッポンをスッポン料理にして食べるわ。」


 「............」


 「博士の、博士の家を燃やすわ」


 彼女はマシンガンのように暴言を吐きまくる。僕は再びハッチを開けた。


 「君はまるで駄々をこねる子供のようだ。もう15にもなるんだ、しっかりしなさい。」


 僕は泣きじゃくる子供をなだめるように言う。


 「私より3歳上だからって、偉そうに上から物を言うのはやめてよ!」


 彼女は、狂犬のようにギラギラと輝いた目でそう言い放つ。その瞳は少し湿っている。


 「わかった。では、バーカー君。」


 「パーカーです。」


 「パーカー君。君の望みはなんだ?」


 「私も連れて行ってください。」


 パーカー君は一歩も引く気がないようだ。

 しかし、僕も引くわけにはいかない。もう行くしかないのだ。


 「失敗すれば死より酷いむごことになるかもしれない。そんな旅に君を巻き込むわけにはいかないんだよ。」


 これは事実だ。そして、僕は声を荒げた。


 「君を愛してる。だから連れていけないんだ。」


 嘘だ。愛してる? そんなバーカーな。僕は論理的だ。こういう時は、こう言うのがテンプレなんだろう。


 沈黙。秒針の音すら消えた世界。僕らを見つめる全ての研究者の目が宙を泳いでいる。


 パーカー君は、一瞬だけ動きを止めた。

 かと思うと、そのまま何もなかったように、無表情のまま僕へ歩み寄ってくる。


 足音だけが、淡々と響く。


 「なんだね?」


 ああ、これはあれか「ビンタだな。」仕方ない、これくらいは許してやろう、と思った矢先、彼女は早かった。


 ふわりと背伸びをしたかと思うと、両手で僕の頭をガッチリとホールドし、彼女は僕の唇を奪った。


 全身に電流が走ったような衝撃が走る。今なにを...


 「これで、わかった?」


 耳元で、かすかに震える息遣い。低く、静かに、それでいて残酷な声。


 「あなたは、愛を知らないのよ。」


 胸の奥がざわめく。体温が急激に奪われていく。


 次の瞬間——視界が傾き、僕はコックピットから、落ちた。


 「ななな、なんだね、急に!?!」反射的に言葉が唸る。


 コトを理解すると同時に、体温が急激に上昇し、頭がガクンガクンと鳴り始める。心臓もバッコンバッコンとうるさい。


 「本当は寂しかったんでしょ?手が震えているわ。」彼女はあっけらかんとする僕の手を両手で握りしめ、甘く囁やいた。


 「そ、そんなことない、そんなジャネーシ…」僕は情けなく、唇がふにゃふにゃと震える。まだ、あの湿った感触がクッキリと残っている。

 

 「あなたって、ほんとわかりやすいわね。奥さんなんかいないくせに。」彼女は静かに攻撃を続ける。


 「やや、めろ…」


 攻守一変、猛攻撃を仕掛けてくる『本気のオンナ』に、僕はaragauあらがう術を持ち合わせていなかった。


 「ねえ。寂しいんでしょ?私に抱きしめて欲しいんでしょ?」再び囁かれる声。


 「ねえ、どうなの『はい』か『いいえ』で答えて...ねえ...ねえ...」


 ダメだ、これは悪魔の囁きだ。


 耐えろ。耐えるんだ…3.1415…3.14455555555


 しかし、もう僕の脳内に『理性』と言う単語はない。


 「ヒャい」僕はふにゃりと返事をした。


 それは、彼女とのを意味した。

 報酬として与えられる暖かい抱擁。 

 

 気づいたときにはもう遅い。体が、心が、引きずり込まれている。


 僕は彼女にちた。


 意識りせいを失った僕を抱きしめる女。

 彼女はゆっくりと振り返り、静かな声で告げた。


 「そこの貴方、代わりに行きなさい」


 指先が、ひとりの研究員を指し示す。


 「え、えええ……なんで、なんで私が?」

 研究員の声がuragaeruうらがえる。当然の反応だ。そして、キョロキョロと辺りを一周して、助けを求める。


 だけど——彼女の目が、それを許さない。


 「わかってるわよね?」

 「ね?」

 「ね?」


 凍りつくような冷徹な声が響き渡る。

 その瞬間、研究員の肩がピクリと揺れた。


 ロックオン完了。


 研究員は観念したように大きく息を吐くと、ズカズカとコックピットへと歩いていった。

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