第6話
“好き”という言葉は時に残虐だった。
失いたくないものを人は好きという2文字に表す。
この世に自分が存在する限り、あってほしい。叶わないがそう願ってしまう。
そして失うときに想像以上の悲しみが心を支配する。
見えない刃で何か所も存在しない心をグサグサ刺してそして抉って。
それは幾度も襲ってくる。
日常的に通り魔の如くやってくる。
食事をしている時。授業を受けている時。友達と会話している時。
セロトニンは十分なはずなのに、何故か刺されるのだ。
こういったネガティブな思考は一説によると扁桃体と海馬の間で過剰な情報のやり取りが発生していると言われている。
今目の前にいる彼女もまた。
いつか消えてなくなってしまうのだろうか。
血液を通して私の思考は瞬く間にネガティブになってしまう。
けれども彼女の微笑む姿を見ると一瞬だけ忘れられるのだ。
一瞬だけ。
でもすぐに思い出す。そして見えない刃は私を何度も何度も刺していく。
私は彼女の手を離した。
離れた手に気付き、軽やかな足を止め、彼女は振り返る。水たまりにとどまる私を見て彼女は首を傾げた。
「季津果?どうかしたの?」
彼女の質問に私はこう答えた。
「気持ち悪いの。この感情が。美都祇に対する気持ちが」
革靴にどんどんと雨水が侵食してくる。今の私の気持ちとそれは似ていた。
「そう。それは私には拭えない気持ちなのね。」
「違っ……そういうことじゃないの。私が気持ち悪いの。だっておかしいじゃない。私女の子なのにあなたを見てるとココが苦しくなるし、何故かとても充たされるの。あなたの仕草を見るとこう……もうわかんない。ごめん。多分ただの憧れとか嫉妬だと思う。」
彼女に対して好きだと言えばそれは呪いに変わるかもしれない。私はそう思い好きだとは言いたくなかった。
それでも彼女は私の手をもう一度引っ張った。
私の足は水溜まりから抜けて私の鼻腔にはあの日本屋で香った花の匂いが広がった。
彼女は私を優しく抱き締めこう言った。
「謝らないで。季津果、乗り越えたのね。」
私は彼女の胸の中で?となる。
そして彼女はそのままこう続けた。
「彼があなたを泣かせた人なのでしょう。なのに季津果は私の事ばかり。もう大丈夫なのね。よかった。」
私ですら気が付かなかった事に彼女は気付いてくれた。私はそれが嬉しくて彼女を小さく抱き返した。
「ありがとう、美都祇。」
私は彼女に聞こえたかはわからないが小さくそう呟いた。
「好きだよ。」 @then0222
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