お雛様夜会

こーの新

お雛様夜会


 部屋の電気が消えた。ぼんぼりの明かりに、お雛様が照らされる。


 江戸の芋顔の芋雛、芥子サイズの芥子雛、明治大正の豪華なお雛様、昭和平成のふっくらしたお雛様、令和の細身なお雛様。一同に集められたお雛様たちが瞬きする。



「あれ、ダーリンは?」


「だーりん?」



 令和雛の言葉に芋雛が首を傾げる。令和雛はプッと吹き出すように笑う。



「えー、旦那様ってこと! ってかその顔、やば、マジ芋」


「こら。何を言いますか。先達を見下すなど、言語道断」


「まあまあ、この時代の子に言っても分かりませんよ。ハラハラ騒いで楽しい世代ですから」


「貴方もでしょう!」



 昭和雛がピシャリと言い放つと、平成雛が間を取り持つように嗜める。けれど昭和雛から令和雛と一緒くたにされて不機嫌になった。



「まあまあ。落ち着いて。旦那様でしたら、お隣のお部屋ですよ。今頃、お酒を飲んでいるのではないかしら」


「えー、うちのダーリン、お酒飲めないんだけど。アルハラじゃん」



 明治雛が物腰柔らかに言うと、令和雛はぶーぶー頬を膨らませた。



「あら? そういう言葉を使わなければ身を守ることもできないのですか? それに、社会に合わせるということもできないのですね」



 大正雛が令和雛を見下すように言うと、令和雛は怒った様子で地団太を踏んだ。



「ひっどーい! 違うし! うちのダーリンは周りに合わせようとしてるし! でもできないことはできないんだよ!」


「あら? そうかしら? できないことを言葉の暴力でぶん殴っているだけでしょう? 権利ばかり主張して、義務を果たさない。あー、やだやだ」



 昭和雛が言い返すと、大正雛もうんうんと頷く。



「は? 権利主張して何が悪いのよ!」



 平成雛も令和雛に加勢して、やいのやいのと騒ぎだす。それを明治雛は下々の民を見下ろすように、高見の見物。芋雛はやれやれとため息を吐く。



「ふふ、余裕のない方々ですこと」



 誰よりも華美な明治雛。誰よりも質素な芋雛は頭を抱える。



「はぁ、なんでこんなことに」



 四人の雛たちの口論がデッドヒートしていく中、芋雛はふと辺りを見回す。



「あれ、芥子雛は?」



 その言葉に口論が止まる。令和雛は首を傾げる。



「芥子雛って?」


「私よ! 全く、見えないの?」



 芥子の実サイズのお雛様。彼女はお雛様たちをぐるりと見回した。



「あんたたちは良いわよね。自我を通してやいのやいの。私なんて、質素倹約のせいでこの姿よ! 自我なんてあったもんじゃないわ!」



 芥子雛のキンキンと響く叫び声に障子が揺れた。


 ガタガタという音に、人間が顔を覗かせる。お雛様たちは、静かに座っているだけ。服は少し、乱れていたけれど。


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