片手にメンチカツ、目の前に妖怪

 1970年7月21日


潮咲しおさき村とうちゃーく!」

「とうちゃーく!」

「テンション高いのぅ」

「当たり前だよ!」


 一輝は過去に来たワクワクで踊りそうになりながら(実際鼻歌は歌った)、鉄道で宝町から潮咲村に移動してきた。ミュンネが言っていた通り、蒸気機関車には乗れなかったけれど。


「ここからどうするの?」

「妖怪の見える人間をさが––––」


 ぐうぅぅ……。


 ミュンネは口をつぐんで一輝を見た。正確には、お腹を見た。


「……先に何か食べるか」

「えへへ、ごめん」


 腕時計を確認すると十二時ジャストだった。


「何食べるにゃん?」


 隣でぴょんぴょん跳ぶように歩いているプリムに見上げられて、一輝は腕を組んだ。


「うーん……お店に入ってもたぶん一人席に案内されてふたりが窮屈きゅうくつだろうし……」

「気は使わんでいいぞい」


 ミュンネが笑うのに一輝は首を振った。


「店内だと話し声がひびくでしょ? おれ、一人で話してるように見えるだろうし、外の方がそういう気も使わなくて済むよ」


 ミュンネとプリムは顔を見合わせる。


「外でも目立つのは同じだと思うが」

「まぁ一輝の好きなようにすればいいにゃん」

「わかった」


 一輝は辺りを見回しながら歩き、やがて「おっ」と声を上げた。


「コロッケだー! 食べよう!」


 一輝がかけて行ったのは肉屋だった。


「メンチカツ三つください」

「あいよ」


 さっきミュンネの両替機で替えたお金を渡す。


「まいどあり」

「ありがとう!」


 メンチカツをミュンネとプリムに配り、一輝は自分のメンチカツにかぶりついた。


「ん〜、おいしい!」

「あぶらっこいのはちとダメなんじゃがのぅ」

「ボクが代わりに食べてあげるにゃんよ?」

「お前さんが大食いなんかしたらクマそのものじゃ! ネコになる気はあるのかの?」

「ネコだって肉食にゃ! セーフにゃっ!」


 横でぎゃいぎゃいやられているのは気にせず、一輝はメンチカツをもぐもぐ食べながら辺りを見回した。海のにおいがする。


 のどかな村だ。子供達がきゃっきゃと走り回り、道行く大人たちも、みんな穏やかな表情を浮かべて––––。


「……わっ」


 再び前を向いて、一輝はハッと足を止めた。

 目の前に男の子がいたのだ。しかも、こちらをうさんくさそうな目で見ている。

 色黒の肌に、それを際立たせるような白いタンクトップ。


「お前……何者だ」

「え?」


 十二年生きてきたけど、一言目に「何者だ」と言われたのは初めてだよ!?


 どう返すのが正解か分からなくてぽかんと立っていると、ミュンネがふっと息を吐いた。


「探す手間が省けたの。一輝、メンチカツ持ってやるからスフィアを使いなさい」

「え。うん……」


 なお不審そうな目でこちらを見る男の子と、なんの感情も映さずただじっと男の子を見つめるミュンネ。

 一輝は戸惑いながらもメンチカツをミュンネに預けてスフィアを出した。高く放る。

 二つの銀色のリングがくるくると回りだし、スフィアが目の高さまで落ちてくるとまばゆく光った。


「なんだ⁉︎」

「それは……!」


 男の子の声と……もう一つ少年の声が聞こえてきた。

 光が消え、スフィアをキャッチしてから、一輝はもうひとりいたことに目を見開いた。


「妖怪!」


 男の子の隣に青空色のネコ妖怪がいたのだ。

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