歪み

白川津 中々

◾️

母が風邪を引いた。


粥を作って、薬と一緒に寝室へ持っていくと、すぅすぅと寝息を立てている。顔色は良好で血色も悪くない。お盆を床に置き、額に触れてみる。汗ばんでこそいるものの熱は引いていた。


……


無防備な寝顔を見る。刻まれた皺と荒い肌が苦労を物語っている。女の身一つで俺を育て十五年。歳の割に若く感じるが、これまでの人生がしっかりと現れている容貌。俺がいなければ、まだ気楽に生きていられただろうにと申し訳なくる。今日だって「お金が必要だから」と、途中まで仕事へ行こうとしていた。やはり人様の家庭と同じように金がないようだ。金のために、俺のために母は人として、女としての時間を使って、働いている。


そう考える内に、母に欲情しているのに気がついた。俺のために身を粉にして、体を壊してまで働こうとするその無性の愛に、邪がどくんと心臓を動かしたのだ。母の唇から漂う女の色香に酔い、俺はそのまま口付けをした。うぅんと気怠げな声が耳に届くと、もう、止められなかった。俺は母の失われた女の生に水を与えたくて堪らず、彼女の体を扱う。このまま続ければ母は起きるだろう。そうしたら、「愛してる」と呟いてやるのだ。


「お母さん」


愛しき母を呼ぶ。息子として、男として。

早く、目を開けてくれ。お母さん、お母さん。俺が、たくさん愛してみせるから、一緒に、落ちていこう……

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