第20話

「光!」

思わず水盤をつかんでしまった瞬間に水が揺れ、かぐや姫の視界からその光景はかき消えた。

「さぁ、母はそなたの願いを叶えましたよ。夜叉姫」

かぐや姫は無言のまま夜輝天女を見据える。

「そんな望樹の実が作った世界など。簡単に壊せるのだよ、夜叉姫」

夜輝天女の黒く長い爪が、水盤の水をかき混ぜようと近づく。

「待って!」

かぐや姫の悲鳴にも近い声が響く。

「・・・・・・お母さま。どうぞ。なんなりと、お言いつけ下さいませ」

震えながらそう呟くと深く腰を折った。

「ああ、夜叉姫。ようやく。ようやく、母と呼んでくれたね。夜叉姫。愛しい姫」

夜輝天女に強く抱きしめられる。

「夜叉姫、おまえももう二十歳じゃ。婿をもらってもよい。長い戦の終焉として、敵国の王子が婚儀を望んでいるのじゃ。急ぎ準備をとり行う」

「・・・・・・!」

思わず身をひこうとしたかぐや姫は、さらにがっちりと捕まれる。

「夜叉姫。おまえは、闇の世界の女王に。月神になるために生まれし娘。この世界に平和をもたらすのは、そちの役目じゃ」

間近にある夜輝天女の顔が楽しげに笑う。

赤い唇が大きく開き、言葉を繋いだ。

「早う、世継ぎも産まねばな。男の子を・・・・・・。ああ。やっと、おまえの愛を手に入れた・・・・・・」

震えたかぐや姫の瞳から涙がこぼれ落ちる。

だが、水盤の中に、確かに見えた。

月の草原を歩いてゆく若者の姿が。

光。光。あなたは。そこに、いるのね・・・・・・。

待って、いて。

私が、命尽きたときは。

あなたのそばに。

あなたと、共に・・・・・・。

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