鳥肌
びびっとな
鳥肌
私自身は金縛りというものになったことはないのだが、どうやら金縛りになりやすい条件というものがあるらしい。
疲れが溜まっている時、昼寝をしている時、生活が不規則な時。意識は目覚めているのに、身体が動かせなくなることがあると言われている。
医学的には、睡眠麻痺と呼ばれる状態らしい。その症状の中に、強い恐怖や不安感を伴う体の硬直がみられることから、心霊現象との関連性を唱える人も多いようだ。
今回のお話も、巷でよく聞かれる金縛りという現象の一つであると考えられる。
ただ、少しばかり奇妙であることを除けば。
20代会社員の女性Kさんが、布団の中で眠っていた時のこと。
彼女は仕事の繁忙期で、疲れていた。その日も倒れ込むようにして布団へと潜り込んだのだった。
Kさんは夢を見た。
辺りは草や木が生い茂り、山のようだ。霧が立ち込めていて遠くが見えない。
しばらく歩くと、石造りの階段が現れた。自分がどこへ向かっているのかは分からないが、Kさんはその階段を登らなければいけない気がした。
階段の前に立ち、右足を掛けた瞬間。
まるで段差を大きく踏み外した時のような『落ちる』感覚と共に目が覚めた。
いつもの天井。布団の上で目を覚ました。
よく、落ちる夢を見て目を覚ますことがあるが、今回もそうだったのかと思い身体を起こそうとする。しかし、身体を動かすことが出来ない。
金縛りだ。
初めてのことではなかった。しかし、いつもと何かが違う。
やけに怖いのだ。何がそんなに怖いのかは分からないが、Kさんの身体は震えていた。
周囲には家具があるだけ。Kさんは一人暮らしなので、もちろん部屋には誰もいない。それなのに、ただ恐怖という感情だけが頭を支配していた。
突如、右の足首に冷たい感触が走る。何かに掴まれたようだ。
次の瞬間、グッと物凄い力で足側へと引っ張られた。まるで落ちた時のような感覚に、思わず目を瞑る。
怖い。怖い。怖い。落ちていく感覚に身を任せているうちに、意識を失っていた。
どれくらい経っただろうか。Kさんは自身の身体が動かせるようになった事に気付き、恐る恐る目を開ける。
見慣れた天井。先ほどと同じ景色。Kさんの身体は、布団の上から少しも動いていなかったそうだ。
こういった怪談でよく聞かれるのは、手の形のような痣が残っているなどの『痕跡』だ。しかし、Kさんの足には掴まれたような跡は何も残っていなかった。
ただ、掴まれた右の足から大腿にかけて、びっしりと鳥肌が立っていたという。
あの感触は疲れが見せた幻だったのだろうか。
それとも、引っ張られたのは身体ではなかったのかもしれない。
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鳥肌 びびっとな @bibittona87
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