アイドルを疑い、愛し抜くギフテッドの推しが尊い

たんたん

アイドルを疑い、愛し抜くギフテッドの推しが尊い

昔から、アイドルであることに葛藤を抱えていることを隠さない推しに尊さと勇気を貰ってきた。


そして、アイドルの枠を超える才能を持つギフテッドの推しにいつも憧れる。


こんなことを書いておきながら、やっぱり僕は推しがアイドルでいてくれる姿が好きだ。


僕の推しは乃木坂46の林瑠奈、DOMOTOの堂本剛、そしてアイドル的人気を博す芸人のビートたけしだ。


まず、ギフテットについて。


アイドルは、歌や踊りだけでなくコントから役者業、衣装のデザインやコンサートの演出や執筆業など沢山の仕事を引き受けることがある。


その時に無双するアイドルは見ていて見惚れてしまう。何をやっても一人だけ際立つ人というのはいるのだ。


歌番組で人気歌手の曲をカバーする堂本剛の歌声は、本家を超えそうな勢いだといつも思う。いつしか彼は自分で曲作りをするようになった。本人が作詞作曲したデビュー曲『街』を聴くと僕はいつもその切なく力強い曲と歌詞に泣きそうになる。


映画に出れば『戦場のメリークリスマス』で名演技して他の異業種俳優を悔しがらせたビートたけしは、北野武名義で映画を撮って長い期間をかけて自分を認めさせた。


林瑠奈はものボケした際にやかんを足の間にくぐらせながら「これホンマに時給3千円ですか?」とかました。「面白れぇじゃん」思わず少女漫画の俺様系イケメンの口調で声に出さずに呟いてしまった。


それでいて「きっかけ」という1曲の歌を乃木坂46全現役メンバーがパートごとに歌い継ぐときには歌唱力のいる箇所を任され難なく歌ってしまう。


林瑠奈、堂本剛、ビートたけし。共通しているのは、少し影のあるところだ。


影があるのに、歌っても踊っても喋っても演じても作品を作ってもダントツでうまい。他の仲間を置き去りにしてしまう。


絶対的な王道センターより覇道が似合うのも魅力である。


林瑠奈には同期だけでも遠藤さくらと賀喜遥香という表題曲の絶対的センターがいる。


堂本剛は期間限定のユニットでセンター経験とソロ活動があるが、デビュー以来一貫して男性アイドルとしては珍しいデュオである。


たけしは明石家さんまの主役感に降参してひょうきん族で脇役として盛り上げると早い時期に決めたらしい。


そして、僕の推しのアイドルはいつもアイドルであることに葛藤を抱えていることを隠さない。


もちろん、葛藤や悩みのないアイドルがいるはずがない。でも、そのことをはっきりと示す推しを見ていると依怙贔屓かもしれないが思わずキュンとしてしまう。応援したくなる。


堂本剛はそれを曲にした。ビートたけしはブルーハーツのような歌手になりたかったと語っていた。


ハイスペックにもかかわらず、選抜メンバー入りに長年苦戦してきた林瑠奈がドキュメンタリーで「苦しいよ、21歳」と話している場面を見て胸が痛くなった。


僕はアイドルという仕事は究極のエンターテイメントだと思う。もっと言えばアートや自己表現の真逆にある。


エンタメ、娯楽は「想定内」のストーリーを楽しむことが醍醐味だ。


アート、純文学は「想定外」の揺さぶりで見る人を変えるものだと思う。


例えば、同じホラー映画でもゾンビから逃げるスリルを楽しむのはエンタメ。思いもよらない人間の怖さを視聴者の「想定外」の展開で純文学的に描くタイプの映画もある。


アイドルは断然、エンターテイメント、娯楽、それはすなわち「絶対的に想定内」ということだ。


アイドルはファンを戸惑わせたり、逸脱して幻滅させることが許されない。


それがどれだけ苦しいことか。生身の人間にアニメキャラのような完璧さを求めているのがアイドルファンのわがままだ。


だからこそ僕は、アイドルでいることに染まらないアイドルが好きだ。真正面から向き合い、葛藤し、凄まじい速度で進みながら歩みを止めないアイドルに好感を覚える。


それはきっと、この世界に生きる人はどんな職業や学校にいようが、多かれ少なかれ皆がアイドルだからだと思う。


誰もが皆、決められた歌詞を声に出して、ひな壇で空気を読み、自らの役割を演じている。


本当のことだけ口にして生きていける人などいない。


だからこそチート級の才能を発揮する、影のある姿を見ると応援したくなる。


願わくば、10年後の林瑠奈が31歳になっても、時々でいいから乃木坂の曲を歌ったりグループのイベントに顔を出してほしい。


DOMOTOの堂本剛がアイドルを続けているように。ビートたけしが北野武だけでなく原点の漫才師を忘れていないように。


推しのようなギフテッドではない自分にも、いつかささやかなスポットライトが当たる。そう信じることができるのは、大切なのは迷いながら答えを見つけることだと教えてくれた光そのもののような存在がいるからなのだ。


疑いながら天職を愛して全うするギフテッドなアイドルは、器用で不器用で、とても尊い。

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