Villain

柿崎零華

第1話~会長の死~

俺〈大川〉は普通の人間とは違う道を歩んでいる。


いつかは組織のトップになるため、日々邪道をただひたすら一歩を踏み出しているのだ。


関東一円を率いる巨大暴力団組織「海沢会」。


最初は東京の下町の小さな極道として誕生し、そこから会長「山田」と初代若頭「岡部」の尽力もあり、今では公安がマークをするほど、大きな勢力となった。


現在では関西にも勢力を拡大しようと模索しており、関西一円に君臨する巨大暴力団組織「山彦会」との抗争にもなりかねないため、公安の目も伺いながらも暗躍している。


その本家直参に君臨するのが「藤沢組」。


ヤクザが詳しい人間なら誰もが聞いたことがある組だ。


武闘派揃いの人間が揃っており、誰もが血の気が多い性格をしているため、通称「鷹組」とも言われている。


公安も「海沢会」の中で一番危惧している組とも言われており、過去には敵対組織「王幸会」との抗争では、鉄砲玉として何人の「藤沢組」の人間が王幸会の人間を殺害し、今でも刑務所で日々を過ごしているのだ。


俺もそんな組で若頭をしており、早十年が経っている。


組長である〈藤沢〉も本家ではベテランとも呼ばれており、次期会長候補にも挙がっているほど、実力も知能もかなり長けているのだ。


王幸会との抗争では、本来なら藤沢も逮捕されるはずなのだったが、俺が警察に直接出向きやり取りを行い、最終的には司法取引にて藤沢は不起訴となった。


ありがたいことに、藤沢からは「お前がいなければ一番困る」とも言われており、自分で言うのもあれだが、組長の右腕として今も働き続けている。


年齢は既に四十代を超えているが、まだまだ体力には自信があるため、いつでも藤沢からの命令を聞けるよう、温存しているのだ。


そんなある日。


この会に激震が走った。


既に八十代を超えていた本家会長〈山田〉が突然他界したのだ。


病気療養中と本家若頭〈菊池〉から言われたのだが、一切そんな素振りもないため、中には誰かに殺されたのではないかと言う人間もいた。


だが、藤沢は山田は親子の盃を交わしているため、あまり山田を悪く言うことはしなかった。


そんな山田の葬儀を明日に控える頃。


この物語はスタートする。


俺は藤沢に呼ばれ、組長室に入ることにした。


「お呼びでしょうか」


藤沢は執務席に座りながらも、ノートパソコンを人差し指だけを使い、ゆっくりと打ち込んでいた。


「そこに座っててくれ。ちょっと野暮用が片付かなくてな」


俺は近くにある革製のソファに腰を掛けた。


それにしても藤沢がノートパソコンを打ち込んでいるのは久々に見る光景だ。


俺は微笑みながらも


「何をしてるんですか?」


「あぁ? ちょっとな、飯田の兄弟に頼まれてよ」


「もしかして、不動産関係のデータ入力ですか?」


「よく分かったな。俺にはさっぱりだよ」


「飯田のおじき、元気なんですか?」


「あぁ、まぁな」


飯田は「飯田組」組長であり共に「海沢会」直参もある。


藤沢とは兄弟分の仲であり、同じ事務所を行き来する関係だ。


特に飯田は不動産・闇金関係には強いため、会うたびにその話ばかりを勧めてくるため、恐らくそれに藤沢が乗った形だろう。


それに同い歳であり、同じ武闘派ということで意気投合し、王幸会との抗争では「藤沢組」に対して武器・資金提供を行ってくれた。


そのおかげで、抗争もこちらが有利に捗ったため、本当に恩義がある組でもある。


すると、用事が済んだのか、藤沢はノートパソコンを勢いよく閉じてから、ソファに対面で座ってきて


「それでな。例の会長の件なんだが」


「どうかされました?」


「ちょっとやべぇこと聞いてな」


「なんでしょうか」


「これは、絶対に表に出すなよ」


「はい」


「俺思うんだけどよ。会長、一応警察は病死として片づけられているみたいだが、病死としては不自然な点が多すぎるんだよ」


「例えば」


「会長は風呂で死んでいたみたいなんだが、ボディーガードが、突然姿を消してるんだ。会長だぞ、それに側近も誰もいなかったらしいんだ」


「脱衣所にもですか」


「あぁ、風呂場周辺、誰もいなかったんだ。これがどうも気になってな」


それは確かに不自然だ。


会長は伊豆にある海辺の傍に別荘を構えており、本家の仕事を終えたら必ずその場所に帰るのだ。


だが、当然風呂場だからといって油断はならない。


必ず風呂場の前でもボディーガードや側近たちが傍に居なければならないのだ。


しかし、周りにいないとなると、確実に疑われるのは「誰か裏で手を引いている奴がいる」。


これしかないのだ。


すると藤沢が重い表情になり


「警察の動きも気になる」


「警察?」


「あぁ、風呂場で死んでいたのは分かっているのだが、どんな遺体の状況だったのか、全く分からねぇんだ」


「つまり、警察も何かを隠している」


「あぁ、恐らく第三者から何か操られてんだろ」


「親父は、誰だと思うんですか。その会長の玉取ったやつは」


「恐らく、頭だろうな」


「頭!?」


若頭の菊池が犯人だとすれば、これは大きな事件となる。


会長を殺害して自分がのし上がろうとした魂胆だとすれば、菊池には申し訳ないが、会長の仇になる。


だが、あくまでこの話はまだ妄想段階だ。


仮に間違っていたとすれば、俺たちがやられてしまう。


それを考えながらも、心に秘めておくことにした。


「それとな、大川」


「はい」


「新しい頭、気を付けろよ」


「誰になるんですか?」


「永野だよ」


「嘘だろ・・・」


藤沢が微笑みだし


「やっぱり、お前もそう思うか」


「はい。あの人は会で一番のサイコパスと言ってもいいです」


「まず、あいつが頭なのもおかしいんだよな」


それは藤沢の言う通りだ。


永野は元々本家直参〈芽久山組〉の若頭であり、かなりの狂人だ。


以前の他事務所での抗争でさえも、駆け付けた兄弟分を殺害し、他事務所の奴のせいにをするなど、かなりのサイコパス性質を持っており、会でも悪い意味で一目置かれている存在だ。


もし、仮に若頭に就任するとなると、芽久山を差し置いたことになる。


芽久山もよく許せたなと感じながらも、会話を続けていると、ノックが聞こえ幹部が入ってきた。


俺は幹部をじっと見ながら


「今話し中だぞ」


「あの、頭が来ています」


「は?」


そう言うと、幹部を差し置いて菊池が微笑みながらも入ってきた。


俺らは立ち上がり、一礼をした。


この一瞬だけでも緊張感が漂った。


「よっ、久しぶりだな藤沢」


そう言ってソファに座り、足を組み始めた。


藤沢は緊張しているのか、顔を引きつらせながらも


「頭、今日は何の御用で」


「馬鹿野郎。もう俺は頭じゃねぇ。昨日付で会長になったんだ。お前も分かってるんだろ。言葉を慎めこの野郎」


「すいません」


「挨拶回りだよ。一応直参には会長になったことを報告しねぇと。お前みたいに分かってねぇ奴がいるからよ」


藤沢は黙っている。


ヤクザ世界は上下関係が命だ。


菊池は藤沢より、一回り歳が下なのだが、役職が上になるとこの世界は年下だろうが、関係ないのだ。


本当は藤沢にとってもかなり悔しいことなのだが、先代の会長が決めたことだ。


あまり口出しは出来ないのだ。


すると菊池はタバコを持ち、側近に火を点けさせてから


「あのな。一つ確認しておきたいことがある」


「なんでしょうか」


「先代の会長が亡くなられたのが、どうやら俺の仕業と疑ってるやつがいるみてぇなんだが。お前じゃねぇよな」


「いえ、そんなことは」


「だろうな。お前は先代にも相当可愛がってもらったからな。そんな先代の死の裏を探そうとはしないよな」


「はい」


「分かった。それじゃあな」


そう言って菊池はその場を後にした。


ドアを閉めると、藤沢は怒りのあまり手を握りしめてから


「なぁ大川」


「はい」


「頭・・・いや、会長の裏を探れ。警察に頼んでも良いからな」


「分かりました」


しかし、これが波乱の幕開けとなったのだった。

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