ひなまつり~ぴったりで賞~

辻(仮)

ひなまつり発進!



 あぁ、もうやってらんない……!

 彼女はその日、沸々と込み上げる苛立ちを感じていた。

 ずっしりと重苦しく、実用性ゼロの十二単! すぐ絡まる野暮ったいロングヘア―! そして何より、のっぺりと塗りたくった厚い白化粧……。仮面か?

 部屋の鏡台には、見事な平安トレンドに統一された姿がうつっている。


「君は美しいナ。さすが数万しただけアル」


 隣人の彼の言葉に、彼女は「ケッ」と内心で唾を吐いた。彼はいい。白塗りの顔でもいっそバカ殿みたいで愛嬌がある! 昔から愛されている古き良き造形!

 ……それに比べ私はどうだ? この姿で街に出たらどうなる? 変人として衆目を集めるだけだ。おしゃれせねば! だけど……。

 彼女は下段を見下ろして、背筋が冷えるのを感じた。

 ここに陣取ってはや1日、一度もこの台座から降りたことがない。


「おい! 家主が出かけたぞ! 遊ぶチャンスだ! サッカーしようぜファッキュー!」


 蹴鞠を始める下段の縁者たち。

 下段といっても、この台は三段だけだ。近年のご家庭は、大きな台を置く場所なんてないのだ。省スペースでたった三段。されど、三段……。

 そのとき、傍からか細い声が聞こえた。


「ガン〇ム君、白塗りメイクが好きなのかな……。自分も白塗りだから……」


 そう漏らしたのは、水着姿のサマー限定モデル、ベアトリッチェのフィギュアだ。


「もしかして」


 彼女は、白塗りのバカ殿みたいな彼、ガン〇ム君に恋をしている? ヒトとモビルスーツの禁断の恋? そんな……そんな……

 なんて悲劇的でロマンチックなの……!

 視線に気づいて、ベアトリッチェは恥ずかしそうに頬をそめた。


「わかってるの、私は白人だもの。平安トレンドなんて似合わない……」

「……いいえ、そんなことない! 日本人だってドレスを着てパリコレで歩いてるんだもの。あなたが平安トレンドになっても、きっと似合う! ガ〇ダム君なら、時代を越え、種族も越えて……」


 言葉を重ねるたび、ベアトリッチェの顔には、勇気がにじんでいた。

 そんなベアトリッチェに向けて、彼女はついに本音を告白した。


「実はね、私、外へ行くのが怖いの。でもあなたと一緒なら飛び出せる気がする……」

「カタパルトスタンバイ! システムオールグリーン! 発進!」












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