【KAC2025】楠木さんはちょっと気になるお年頃

ほわりと

【KAC20251】楠木さんは「ひなまつり」が気になるお年頃

 人は見かけで判断してはいけない。


 斜め向かいの席に座っている柴田さんを見ながら私は強くそう思った。きっかけがなくて話をしたことはないけれど、同じ中学校から進学したから、お互いに顔と名前だけは知っている。いつも本を読んでいて、悪い噂は聞いたことがない。


 そんな柴田さんが午後の授業中にルーズリーフを見ながら百面相をしていた。最初はラブレターでも書いているのかなと、つい出来心でスマホのカメラ機能を使って内容を盗み見た。言い訳をしておくと私は何も悪くない。最近のスマホのズーム機能が凄いのが全部悪い。そんなわけでスマホのせいで盗み見たら、箇条書きでこう書いてあった――


 ・三月三日

 ・ひなまつり

 ・トリの降臨

 ・アイドル


 三月三日は今日。今日と言えばひな祭り。だから二行目まではわかるけど、トリの降臨とアイドルには一体どんな意味があるのだろう。


 ひな祭りの今日に、アイドルを生け贄にして、トリの降臨する儀式をするの?


 気になる、すごく気になる。好奇心は猫を殺すと言うけれど、それでも気になってしまうのだから仕方がない。そうだ、もしも怪しい宗教に入っているのなら、クラスメイトの私が止めてあげないと。


 教室の片隅で私がそう決意していると、授業の終了を告げるチャイムが鳴った。柴田さんの席を見ると居なくなっていた。机の上を手早く片付けて昇降口に向かう。よかった、まだいた。


「柴田さん、ちょっといい?」


「……楠木さん?」


 柴田さんが書いていた内容を見たことを話してから、私は意を決してこう聞いた。


「実は私も、ちょっと気になったから参加してみたいんだけど、私でも大丈夫かな?」


 確かに、そう聞いたはず。それなのにショッピングセンターのニャオンで、ひな人形コーナーを見て回っている。どうして?


「えっと、トリの降臨をするんじゃ……」


「ああ、楠木さんもあれに挑戦するの? まだ時間はあるから、今日はひなまつりを考えようよ。自分の家にある見慣れたものもいいけど、こうして色々見て回ると何か思いつきそうじゃない?」


 ……まだ、時間がある?


 儀式は今日じゃないってこと?


 楽しそうに話す柴田さんに聞くのも悪い気がして、そのままひな人形を見て回ったのだった。

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