枯れゆく世界の救世主(セイヴィア)
エルフの里――それは、豊かな森と共に生きる種族の楽園だった。
エルフは長命で、強い魔力を持ち、森の恵みと共に生きる存在。
だが、その里に生まれた少女、リィナは異端だった。
彼女の手が触れた植物は枯れ果て、大地はひび割れ、水は濁る。
「なんて恐ろしい子なんだ……!」
「この子のせいで森が……」
最初はただの“奇妙な現象”だと思われていた。
だが、リィナが成長するにつれ、彼女の力はますます強くなっていった。
その影響は村の作物や薬草にも及び、ついには一部の森が枯れ果てた。
「枯死の呪いを持つ娘」
誰かがそう呼んで以来、その名はあっという間に広がった。
◇◇◇
リィナの家族は彼女を守ろうとした。
母は必死に「きっと制御できる」と訴え、
父は村の長老たちに「この子にも生きる権利がある」と懇願した。
だが、事件が起こった。
ある日、リィナの弟が怪我をした。
彼女は必死に手を伸ばし、治そうとした――だが、その瞬間、弟の体から温もりが消えた。
弟が横たわる草花は枯れ果て、彼の命も、二度と戻らなかった。
「あ……あぁ……」
リィナは震えながら、自分の手を見つめた。
父と母の叫びが、村中に響いた。
「リィナ……! なぜ、なぜだ……!」
「違う……違うの……っ!」
弟を殺したのかもしれない。
それが真実かどうかも、リィナには分からなかった。
――だが、この日を境に、村の人々は彼女を“本物の呪い”と確信した。
「もう我慢ならん! こんな災厄、里に置いておけるか!」
「今すぐ追放すべきだ!」
かつて友達だったエルフたちが、恐怖と憎しみの目を向ける。
母は涙を流し、父は何も言わなかった。
そして、追放が決まった。
◇◇◇
「……行け」
夜明け、リィナは里を追われた。
彼女の目の前には、誰も踏み入れぬ禁断の森。
そこは魔物の巣窟であり、エルフの禁忌とされる場所だった。
「ここで死ねということ……?」
震える足で森を踏みしめる。
後ろを振り返ると、そこにはもう、帰る場所はなかった。
◇◇◇
それから数年。
リィナは人里離れた廃墟で、ひっそりと生きていた。
森の動物すら寄りつかない場所で、孤独に過ごす日々。
「……私がいるだけで、すべてが枯れる」
生きる意味も分からぬまま、ただ存在していた。
しかし、その静寂は**“侵食樹”**の出現によって打ち砕かれる。
異形の植物が世界を蝕み、あらゆる生命を貪り尽くしていく。
どんな魔法も刃も、侵食樹には通じなかった。
唯一、それを枯らすことができるのは――
「……この力なら、止められる?」
リィナは再び歩き出す。
かつて自分を追放したエルフたちを救うため、世界を救うため、
自身の“忌み嫌われた力”を使うことを。
◇◇◇
――これは、世界に祝福されなかった少女が、世界を救う物語。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます