異世界漂流 ~帰れなくなった俺のファンタジーライフ~

プロローグ:戻れない世界


「よし、今日も行くか!」


俺――**相川 悠斗(あいかわ ゆうと)**は、ちょっとした特別な能力を持っている。


それは二次元の世界を自由に行き来できるというものだ。最初は夢か幻覚かと思ったが、ある日ふとした瞬間に漫画の中へ飛び込んでしまい、ようやく理解した。これは夢じゃない、現実だ、と。


とはいえ、俺にチート能力があるわけじゃない。超人的な戦闘力もなければ、魔法も使えない。あるのは、作品の知識と、どんな世界でもそこそこ上手く立ち回れる適応力だけだ。


それでも、この能力は最高だった。



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二次元を旅する日々


最初に訪れたのは、俺が昔から好きだったバトル漫画の世界だった。


「へえ、これがあの街か……!」


原作で見た景色が目の前に広がるのは、何度体験しても感動する。実際に歩いてみると、街の匂いや人々の活気がリアルに感じられる。俺はすぐに酒場へ入り、モブ客に混ざって原作のキャラが現れるのを待つことにした。


「おい、新入り。腕試しだ!」


いきなり絡まれたが、知ってる。こいつは原作で噛ませ犬ポジションのやつだ。勝てる見込みはないので適当に謝って逃げるのが正解。


「す、すいません! 俺、ただの旅人なんで!」


「ちっ……つまんねえ奴だな」


ふう、危なかった。下手に目立つとヤバいのは、こういう世界の鉄則だ。


だが、見ているだけでも楽しい。主人公が宿屋から飛び出してきて、例の名シーンが始まる。俺は感動しながら、それを観客として楽しんだ。



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次に訪れたのは、学園ラブコメの世界。


「おっ、来た来た!」


放課後の教室、俺の目の前では、王道の幼なじみ vs 高嶺の花のヒロインバトルが勃発していた。


「だから言ったでしょ、彼を放課後に呼び出すのはやめてって!」


「え? 私はただ一緒に勉強しようと……」


キター! これぞ青春ラブコメ! わざわざ邪魔はしないが、廊下の隅でニヤニヤしながら見守る。


「すみません、あなた誰ですか?」


「えっ!? い、いや、俺は通りすがりの……」


不審者扱いされたので、そそくさと退散した。



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そして、俺のお気に入りはファンタジー世界だった。


「よし、今日は異世界で美味い飯を食うぞ!」


剣と魔法の世界を歩き、スライム退治を手伝ったり、冒険者ギルドでモブ会話に混ざったりするのが楽しい。


この世界の食事も最高だった。王都のパン屋のクロワッサン、港町のシーフードパエリア、ドワーフの作るビールと肉の煮込み。異世界グルメ漫画を読んでいた俺は、実際にそれを食べるという夢のような体験をしていた。



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こんな感じで、俺は好きな二次元世界を行き来しながら、それぞれの物語を「観光客」として楽しんでいた。


しかし。


それは、ある日突然、終わりを告げた。



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戻れない世界


「……ん?」


目を覚ました瞬間、違和感が全身を駆け巡った。


いつものようにベッドの上で目を覚ますはずだった。だが、見慣れた天井はなく、ふかふかの布団もない。


目の前に広がるのは、どこまでも続く草原だった。


「え……?」


何度か瞬きをして、頭を振る。夢か? いや、違う。確かに俺はファンタジー世界に来たはずだ。だが、今回は何かがおかしい。


「……帰る」


いつものように念じる。だが――


「……あれ?」


戻れない。


「帰れない!?」


焦る俺。何度試しても、現実世界へ戻る感覚がまったくない。


(落ち着け……落ち着け、俺……)


深呼吸して、周囲を観察する。そこに見えるのは、小さな村。人の気配もある。少なくとも無人の世界ではなさそうだ。


「とりあえず、情報収集だな」


俺はひとまず、村へ向かうことにした。


だが、その時だった。


「おい、お前! そこを動くな!」


鋭い声が響く。振り返ると、数人の鎧を着た男たちが剣を構えて俺を囲んでいた。


(……え? 俺、何かしたか?)


戸惑う俺に、隊長らしき男が言い放つ。


「お前……魔王軍の手先だな?」


「……は?」


こうして俺の、本当の異世界生活が始まった――。



---


第一章:指名手配された俺


「えーと、何のことですか?」


突然の指名手配。俺は何もしていないはずなのに、いきなり王都へ護送されることになった。


(どうしてこうなった……)


だが、護送の途中で俺は気づいた。この世界は確かに俺が知っているファンタジー作品と似ている。けれど、微妙に設定が違う。


(まさか……これは"俺の知っている作品"とは違う、完全に未知の異世界なのか!?)


そう、俺は今まで行き来していた「既存の二次元世界」ではなく、完全オリジナルの異世界に飛ばされていたのだった。


そして、戻る方法は――まだ、分からない。


(……いや、こんな状況で落ち込んでる場合じゃない)


「おい、そこのお前。俺の話を聞いてくれないか?」


俺は隙を見て、護衛の騎士と交渉を試みた。ここからの脱出と、この世界の真実を探るために――。

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